俳人・楠本憲吉のみた夢
彼は昭和32年2月に長期療養のためにお茶の水の順天堂大学に入院しました。そんな入院中の一日のある日、神戸にいるはずの母親が氏のベットの横にしょんぼり立ち、右手で額のあたりを押さえてシクシクと泣いているのでした。「お母さん、心配せんでよろしい、たいしたことないんやから」と、むこうにいる母親に言った自分の声で、楠本氏は目を覚ましました。見ると夢の中で母が立っていたところには氏が入院するときに母の着物で仕立てた丹前がぶら下がっているだけでした。「夢だつたのか」と思いながら、氏はそのうちまた眠ってしまいました。
やがて安静時間があけると同時に氏の奥さんが病室に飛び込みました。「あなた大変よ!岡本(神戸市街)のお母さんが脳溢血で…」こう言うなりワッと泣き伏しました。
「私は母を亡くし、その死に目に会えなかった悲しみよりも、今しがた見た夢のなかの、泣き濡れた母の姿をありありと思い出して背筋の冷たくなる思いを禁じ得なかったのです」と述べています。
この例のように、死に瀕した人が夢を通じてそれを告げることは、夢の予知夢の中でも、もっとも報告例の多いものです。
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