河内の禅師の牛霊のために借らるる語り

今昔物語 巻二十七第二十七

今は昔、播磨守の佐伯公行という人がおった。その子に佐大夫といって四条高倉に住んでいた者は、今も生きている顕宗という者の父である。この佐大夫は阿波守藤原定成朝臣の供をして阿波に下る途中船が沈み、守とともに海に落ちて死んでしまった。その佐大夫は河内禅師という人の親類である。

 そのころ、その河内禅師の家に黄まだらの牛がいた。その牛を知人が貸してほしいというので淀にやったところ、〔樋〕集橋の上で牛飼が車の扱いを誤って、片方の車輪を橋から落し、そのはずみで車も橋から落ちかかった。やれ車が落ちる、と思ったのか、牛は踏みはだかってこらえたので、鞅(むながい)が切れ、車は落ちてこわれてしまったが、牛はそのまま橋の上にとどまっていた。車にはだれも乗っていなかったので、怪我人はなかった。つまらぬ牛ならば、車に引かれて、牛も傷ついたであろう。そこで、「すごく力の強い牛だ」と、そのあたりの人もほめたたえた。

 その後、その牛をたいせつに飼っていたが、どういうわけか知らず、姿を消してしまった。河内禅師は、「いったい、どうしたことだろう」と、大騒ぎして捜したけれど見つからない。どこかへ逃げて行ったのかと、近くから遠くまで捜させてみたが、どうしても見つからないので、捜しあぐねているうち、河内禅師の夢にあの死んだ佐大夫が現れた。この男は海に落ちて死んだと聞いたが、どうしてやってきたのだろうと、夢心地にも恐ろしく思いながら出て行って会ってみると、佐大夫が、「わたしは死んで後、この家の東北の隅に住んでいますが、あれから日に一度、〔樋〕集橋のたもとに行って苦しみを受けているのです。

ところが、わたくしは罪が深くて非常にからだが重いので、乗物が乗せられず、しかたなく歩いて行くのですが、苦しくてしかたありません。この黄まだらの御車牛は力が強く、わたしが乗っても大丈夫なので、しばらく拝借Lて乗らせていただいていましたが、あなたがたいそうお捜しになってわられるので、これから五日後、六日日の巳の時(午前十時)ごろ、お返しいたします。あまり大騒ぎしてお捜しなされますな」と言う。こう夢に見て日が覚めた。河内禅師は、「わたしはこんな不思議な夢を見ましたよ」と人に語って、牛は捜さずにいた。

 その後、その夢に見た六日目の巳の時ごろ、この牛がにわかにどこからともなく歩いて帰って来た。何かひどく大仕事をしてきたような様子であった。

 すると、あの〔樋〕集橋で車は下に落ち、牛だけ橋の上に踏みとどまったのを、かの佐大夫の霊がたまたまそこに行き合わせて、力の強い牛だと思い、借りて乗りまわしていたのだろうか。

これは河内禅師が語った話しである、実に恐ろしいことだ、とこう語り伝えている。

 

 

不思議な夢

 

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