十訓抄より栗田讃岐守兼房

栗田讃岐守兼房という人がおられた、長年にわたって和歌が好きであった。良い和歌を詠み、心の中では常に柿本人麻呂の事を思っていた。

ある夜の夢に西坂本と思える場所で、木はなくて、梅の花びらが雪のようにように散っていた、非常にいい香りがするので、内心すばらしいと思っていると、近くに年老いた人がいた、貴族が着る常服で、薄い色の上袴(うえはかま)、赤い下袴(したはかま)をつけ、よれよれの烏帽子をかぶり、烏帽子の後ろが上の方にかぶり、普通の人と似ていなかった、そして左手に紙を持ち、右手に墨を含ませた筆を持ち、思案げな様子だった。不思議になり、どこの人だろうと思っていると、この人が言われるには「長年にわたり柿の本人麻呂の事を心に思う気持ちが深いことにより、柿本人麻呂の姿を見させてあげる」とだけ言って、姿がかき消すようにいなくなった。

その翌朝に絵師(画家)を呼んで、夢に見たありさまを言って絵を描かせた。似ていなかったので何度も描かせて夢に見たように描かせた。そして出来た絵を宝物のようにして拝んでいた、その功徳があったのか、夢を見る前の和歌よりも良い和歌を詠めるようになった。(十訓抄より)

※栗田讃岐守兼房は藤原道兼の孫で、西暦1069年に没している、人麻呂より300年後に生まれた人である。彼が人麻呂の姿の夢をありありと見ることができたのは、常々人麻呂の事を思っていたからであり、夢を見る前より良い和歌が詠めるようになったのは、人麻呂の絵を宝のように拝んだ霊験によって、よろしき歌を詠むようになったのであった。彼の絵を拝む行為を影供といい、以後は多くの人々が歌の聖として人麻呂の絵を影供し和歌の上達を願ったといいいます。皆さんも自分がなりたい自物の写真でも飾って影供でもなさってはどうでしよう。

十訓抄…3巻、建長4年(1352)成る、六波羅二臈左衛門著。教戒を説く意図のもとに、十ケ条をたてて例話を集めた説話集。

 

 

 

不思議な夢

 

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