今昔物語巻十五第十八

如意寺の僧、増裕往生する語り

今は昔、播磨の国賀古郡蜂目郷に増裕という僧がおった。幼いころ出家して故郷を去り、京に来て如意寺という所に住み、仏道修行をし、念仏・読経するばかりで、それ以外のことは見向きもしない。

ところで、天延四年という年の正月ごろのこと、増祐は身に小さい腫物ができ、いつものような飲食ができなくなった。すると、近くの人が夢を見た……、この寺の西方に一つの井戸があり、そのわきに三つの車がある。その人がこれを見てきいた、「これはどういう車ですか」。するとその車に付き添っている人が、「この車は増裕聖人を迎えるために来た車です」と答えた……。

こう見て夢がさめた。その後、だいぶ時がたってまた夢を見たが、あの、前に夢で見た車ははじめは井戸のわきにあったのが、今度は増祐聖人の僧房の前にある。こう見て、その夢がさめて後、増祐聖人にこのことを話した。

 さて、その月の終りごろになって、増裕は弟子を呼び、「わしはもはや死ぬ時が近づいた。すぐに葬送の道具をととのえなさい」と言う。これを聞いた弟子たちは、驚くとともにいぶかしく思ったが、寺の僧たちはこのことを聞き増柘の僧房に集まってきて、なかでも知恵のある僧は法文の教理を話して聞かせたり、また世間無常の道理を語って聞かせたりする。増裕はこれらの話を聞いてますます道心を強くした。

 こうして、ついに増祐の命終わろうとする時が来て、一人の弟子の僧が増裕を葬るために寺から五、六町離れた場所に一つの大きな穴を掘った。すると、増祐はそこに行き穴の中にはいって念仏を唱えながら息絶えた(生身成仏)。その時、その寺の南の方で多くの人々の高々と唱える念仏の声が聞こえる。寺の僧がこれを聞き、驚き不思議に思って声の主を捜し求めたが、念仏を唱えている人はいなかったし、また、だれに聞いてみても、「そんなことは知らない」と答えた。

それはちょうど増結が死んだ時のことであった。この念仏は権化(仏や菩薩の化身)の人の仕業に違いないと考えて、寺の僧達はみな尊んだと、こう語り伝えているそうだ。

※生身成仏…死期が近い僧などが、土中に埋められた桶型の棺桶に入り、お経を唱えながら死を迎える行為。

 

  

不思議な夢

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