二 人 同 夢

中国の同夢

同夢体験

万葉の魂

船乗り同夢

戦死者の同夢

浮気の同夢

 

     旅人と巫女の不思議な出会い

同じベッドに寝ていても、普通は見る夢は別々です。いくら仲良くても夢まで一緒ということはないというところから、「同床異夢」とう成句まで生まれた、

ところが夢の世界では「同床異夢」や「他床同夢」といった不思議が、しばしば起こつているのです。そんな話を、古いところから二題、ご紹介しましょう。

貞元(785804)のころ竇質(とうしつ)と韋荀(いじゅん)という二人の男が一緒に旅をして秦の国に入り、ある旅篭に泊まりました。その夜、竇質はこんな夢を見ました。

彼が華岳というきろにある道教寺院に着くと、そこに黒くて背の高い巫女がいるのです。彼女は竇質を出迎えて、ていねいにお辞儀をしてから、「どうか神に願をかけていつてください」と頼んできました。そこで竇質は巫女の注文どおりに願をかけたあと、彼女に名をたずねました。「趙氏です」…巫女は答えました。これで夢は終わったのです。 

目覚めたあと、竇質は夢の話を韋荀室旬に聞かせました。そしてその翌日、華岳の道教寺院まで進んでいくと、夢で見たとおりの姿形の巫女が彼らを出迎えたではありませんか。

竇質は韋荀に向かって、「夢の知らせのとおりだ」とそっと耳打ちし、従者に命じて財布の中を調べさせました。財布の中には銭が二鐶ありました。それを巫女に与えたところ 巫女が手を打って大声で笑いだし、「夢に見たとおりだよ」と、そばにいた仲間に向かって叫びました。                 

 不思識に思った竇質は、巫女にそのわけをたずねました。巫女の答えはこうでした「昨晩二人の男が東からやってきて、そのうちの、あご髭を生やした小柄な人が神に願をかけて酒を捧げ、銭二鐶をくれた夢を見たんです。それで仲間に、その夢のことを話して聞かせたんだが、本当に夢のとおりになりました」 奇妙なこともあるものだと思いながら、竇質は巫女に名をたずねました。すると巫女の仲間がこう教えてくれたのです。                     

「彼女は趙氏だよ」 

これは唐の伝奇作者、白行簡の「三夢記」という小品の一部です。彼はこの作品の冒頭で、こんなことをいっています。                       

「人間は異様な夢を見ることがある。その夢は、先方が夢の中で出かけていって当方がそれに遇う場合である。その二つは、当方が何かをしていて、先方がそれを夢に見る場合である。その三つは、双方の夢が共通している場合である」

竇質の夢はこの三種の「異様な夢」のうちの三番日の夢ですが、第一、第二の夢も珍しいものではありません。相手が自分の夢にやってくるか、自分が相手の夢に出向くかの違いだけで、要するに眠っている間に働くテレパシーのことをいっているからです。 

 

 

死を告げた同夢

 もうひとつ、「二人同夢」の話しを紹介しましょう。

会稽というところに住む謝奉(しゃほう)は、永興の地で太守の地位にあった郭伯猷(かくはくゆう)と親交がありました。あるとき、謝奉は、郭の夢を見ました。郭が博打(バクチ)の金のことでけんかを始め、水に落ちて死んでしまったので、謝奉が葬式の後始末を取り仕切るという内容の、まことに縁起のよくない夢でした。

 夢が気になった謝はさっそく郭の家をたずね、碁を打ちながら昨夜の夢の話を郭に聞かせました。すると郭はがっくりした様子で、こういいました。

「そうか、実はわたしもだれかと金のことで争った夢を見たのだ。貴公の夢となぜこんなにぴったり一致する夢を見たのだろう」

 それから間もなく、郭は便所に立ちました。ところがいきなり倒れ、そのまま息絶えてしまいました。

そのため謝は、郭の葬儀の道具を調えることになりました。まさに夢に見たとおりのことが、ただちに現実となったのです(干宝『捜神記』)。

死の場所は夢のシンボルで解ける

二人が同じ夢を見て、夢のとおりに死んだというのですから、これがテレパシーの夢であることはほぼ間違いないと思うのですが、この話では夢の細部が描かれておらず、死因も不明なので、夢と死の象徴的因果関係がわかりません。    

便所に立ったとき、郭は昏倒して息絶えたと『捜神記』は書いています一方、夢には金の争いが出てきていますが、金と糞便は、夢ではしばしば互換的に用いられる象徴のセットです。つまり夢の中の糞便が金になって現れたり、金が糞便や糞便のように無価値なものの意味で用いられることがあるのです。また、金が 便秘など消化器の不調と関連することもあります。ですから、謝や郭の夢に出てきた金の争いも、それと関係していたのかもしれません。便所に立ったところ倒れて死んだという記述は、それを暗示している可能性もあります。もう少し詳しい描写があればと惜しまれます。ともあれ、ここに紹介した「二人同夢」の類語は、夢の不思議を扱った本ではしばしば見かけるものです。次に現代の例をご紹介しましょう。

 

 

夢の痛みか隣の男に伝わった話

評論家の立花隆氏が京都大学で仏教思想史を研究しているカール・ベッカー教授と対談した際、ベッカー教授が語ったという「二人同夢(=間主観的夢inter-subjective dream)の例です立花隆『臨死体験』)。         ベッカー教授はこう語ります「弟と同じ部屋で寝ていたときの夢なんです。夕方、弟といっしょに海岸を歩いているんですね。それで、私がカニを拾っていじめた。すると、弟が、やめろ、やめろ、可哀そうじやないかという。私がいいじゃないかといって、しばらく議諭する。しかし結局、私はカニを海に放してやる。そういう夢なんです。翌朝話しをしているうちに、弟も同じ夢を見ていたということがわかった。『どうして兄貴はいつも動物をいじめるんだ』というので、『いつもいじめてるわけじやない。夢の中でいじめただけだ』といって口げんかをした」

立花氏が、どの程度まで二人の夢は一致していたのかとたずねると、ベッカー教授は会話まで含めて一致しているといい、長いこと同室で暮らしていた友人との聞でも二人同夢を見た経験があるといって、こう語ります。 

「なんか日本の柔道場みたいな大きな畳敷きの部屋で、蹴り合ったりして遊んでるんです。ほんとじやなくて、夢の中ですよ。それで、私が大変強く彼の胸を蹴った。もちろん、まだ夢の中ですよ。ところが、それと同時に二人とも目を覚まして、彼は私の胸をつかんで「痛いじゃないか」と文句をいった。聞いたら同じ夢を見ていたということです。                                                                                                                                                 

24%が二人同夢の体験者

夢の中で蹴ったら、その痛みの刺激まで相手に伝わった)というのですから、なかなかユニークな例です。ベッカー教授は、こうした二人同夢が、「双生児」や「精神的に親しい夫婦同志の間でよく起こるというある宗教学者の説を紹介していますが、実際、親しい者の間でこの種の夢が生じることは、そう頻繁に見られることではないにしても、さほど珍しいことではありません。ちょつと古い例になりますが、1954年にデユーク大学のホーネレル・ハー卜教授が発表したESP趙感覚的知覚に関する研究論文でま、「あなた及び他の人達が同じ夜に同じ夢見たことはないか、またその夢が単なる偶然の表れとは思えないほど互いに類似した夢を見たことはないか」という質問を237名の学生に行ったところ、24%の学生が「イエス」と答え、そのうちの43人は、2回以上、同じ体験をしていると答えたといいます。

つまり二人同夢は、それが起こりやすいタイプの人間がいるらしいのです(ベッカー教授も複数の体験を語っています)。

このように、二人同夢はさほど珍しい現象ではないのですが、中でも双生児や夫婦肉親間には この現象が起こりやすいことが知られています。そこで、夫婦間や恋人間にこの種の現象が起こりやすいという経験知識を利用して、さかんにに恋の歌をつくつたのが日本の万葉詩人たちでした。 

 

魂が抜け出て恋しい人の夢にさまよいこむ

愛する人と会いたい、触れ合いたいという思いが凝ると、魂が肉体から抜け出て相手の夢に入り込むのだと、普の日本人は考えました。「憧れる」という言葉のもとの形は「あくがる」ですが、この言葉の意味ま魂が体から離れるということで、「心ここにあらず」と同義です。つまり「あくがる」とう状態になったときには、すでに魂は肉体から抜け出しかけて、思う人のもとへと飛び出そうとしているわけです。

「たましいはあしたタベにたまふれどわが胸いたし恋のしげきに」     

『万葉集』にある無名の娘の歌ですが、右に述べた事情がよくうかがわれます。       

ここに出てくる「たまふり魂振り)」というのは、魂が抜け出さないよう、じっと自分の体の中にとどめておくこと、つまり「たましずめ(魂鎮め=鎮魂)の意味です。「たまふり」のもともとの意味は、外からやってくる威力をもった魂を我が身に付着させてパワーアップをはかることですが、のちに魂をしっかり身内に固着させる「たましずめ」の意味に転じました。右の歌では、この「たましずめ」の意味で「たまふり」が用いられています。   

さて、そのように朝夕にしっかり自分の魂を「たましずめ」しているのだが、あの人を恋こがれる思いがあまりに強いものだから、つい魂がふらふらと体から抜け出ようとする。そのために胸が痛いと、この娘は歌っています。

実際に魂が抜け出すという考えは、現代では通用しないでしょうが、魂と呼ばれている精神活動の担い手が、夢という「通い路」を通じて何らかの刺激の伝達を行っている可能性は十分に考えられます。

 目に見えない電線のような夢の通い路が、人と人とをネットしている…ひょっとしたら、そんなもうひとつの世界がこの世には存在しているのかもしれません。 

 

 

夫婦の二人同夢を″目撃″した男の話、

船乗りウィルモットの夢

  1863年の実話です。アメリカの汽船ライメツリ号がイギリスのリバプール港を出てニューヨークに向かっていました。ところが折あしく航海2日日から海が荒れ出し、7日もの間、ライメツリ号は太陽も星も見えない暗い空の下を、船は波もまれる木の葉のようにさまよいました。そしてようやく風が衰え、船客、乗組員とも安心して眠りにつくことができた航海8日日の夜に、乗組員のウィルモットが見たという夢です。                   

その夜、ウィルモットがうつらうつらしていると、はるか離れたニューヨークにいる妻が、乗員船室の入り口に立っているように感じました。妻は白いナイトウェアを着ており、入り口でちょつとためらっているようでしたが、意を決して彼のベッドにつかつかと歩み寄りました。そして、1週間ものシケとの格闘で疲れきっていたウィルモットの頭を優しく撫で、そつとキスをして静かに部屋を立ち去ったのです。

 この間、ウィルモットは夢見心地でしたが、妻が出ていったと感じたとたん、ハッと我に返り、「ああ、夢を見ていたのか」と考えました。そのときふと視線を感じてそちらを見ると、同室の船員ウイリアム・ティトが、枕の上に両肘をついた格好でじっと自分を見つめていました。そのティトが、こう声をかけてきたのです。 

「おい、ウィルモット。君は実に幸福な男だな」  

意味がわからなかったので、ウィルモットはそのわけをたずねました。

「だってそうじやないか。あんな美しいご婦人の訪問だぜ」

どうやらティトは、ウィルモットが夢で見たと感じた女性を実際に見たらしいのです。不思議に思ったウィルモットは、ティトに、それがどんな女性だったかをたずねました。

「白いナイトウェアを着た美しいご婦人だよ。僕はドアのところに人の気配がし目を覚ましたんだ。そうしたら、そのご婦人は君のベッドまで歩み寄って、君の頭を撫で、キスをして出ていったじゃないか」

妻の夢との一敢

 まるで狐にでもつままれたような話ですが、ウィルモットはそれ以上は追及せず航海を続け、ニューヨークに戻りました。そして翌日、待ちわびる家族のもとだんらんに戻り、久しぶりの一家団らんの食事を済ませて子どもを撞かしつけました。やっと夫婦水入らずです。そのとき、妻が信じられない話をし始めたのです。

「ねえ、あなた。1011日の夜、私、あなたのところに行ったでしょ?」

ウィルモットは飛びあがらんばかりに驚きました。、すぐには返事もできないで、まじまじと妻の顔を見ていると、彼女は続けてこういいました。       

「なぜかあなたのことがとても気になって、案じながら眠りに就いたの。そうしたら、夢で荒波を越えてあなたの船に行ったわ。すぐにそばに行こうと思ったのだけれど、入り口の私をあたなと同室の方がじっと見ているものだから、ちょっとモジモジしてしまって。私、そのとき白いナイトウェアだったんですもの。でも、思い切って部屋に入って、あなたの頭を撫でてキスして戻ったのよね」確かにそんな夢は見たが……、とウィルモットはなおも半信半疑で妻に細部まで詳しくたずねました。 

けれども、話しを開けば聞くほど、彼女の話しを信じざるをえなくなりました。というのも、彼女はかつて一度も船に乗ったことがなかったにもかかわらず、ウィルモットが乗っていたライメツリ号の船内を正確に描写したからです。            

驚くべき証言者

この不思蔵な出来事を、ウィルモットは天文学者のフラマリオン博士に報告しました。興味をもつた博士は、さつそく関係者を調査しました。そして、その船に乗っていたウィルモットの妹から、こんな興味深い報告を得たのです。

1012日の朝はまだシケの余韻が残っていて、揺れが激しかったので、食堂に行くとき、私は兄(ウィルモット)と同室のティトさんに手を引いて連れていっていただきました。そのときティトさんが、あなたは昨夜、お兄さん尋ねて船室に来られませんでしたかと、奇妙なことを開いてきたのです。いいえ、と答えたあと、でも、なぜそんなことを?と、私はティトさんにたずねました。

すると彼は、″昨晩、白いナイトウェアを着た女性が彼を訪ねてきたもんだから、僕はてっきりあなたかと思いました″とおっしゃったのです」

これはウィルモットとその妻の二人同夢に、目覚めていたティトまでが感応してしまったという珍しいケースです。それにしても、何と不思議な話でしょう。

 

戦死したはずの陸軍中尉が夢枕に

一口に二人同夢といっても、二人がほぼ同時に同じ夢を見る場合もあれば、時間をおいて見る場合もあり、パターンはさまざまです。次に紹介するのは後者の例で、医学博士で心霊研究家だった間部詮信氏が昭和14年の『心霊と人生』誌に寄せた実話です。

昭和3年から8年まで、問部氏が院長を務める病院で副院長としてともに働いた小倉豊治氏は、昭和12913日、召集を受けて敦賀第19連隊に入隊。同年、陸軍軍医中尉として中国大陸に渡り、翌昭和13920日、漢口攻撃に際して陽新の南方30キロの地で戦死しました。

その死は新聞でも報じられましたが、連隊からの通知がこないため、家人は戦死と諦めることができず、無事の生還にわずかな望みをたくして日々を送っていました。ところが、同年11月11日の夜、小倉氏の亡霊が相次いで家人と知人の夢枕に立ったのです。

最初に現れたのは小倉夫人のもとでした。夫人が子ども4人と電灯をつけて寝ていると、横の廊下をガチヤガチヤ軍刀の音をさせながら歩いてくるものがいます、夫人は夢うつつの状態で、「ああ、主人が帰ってきた」と思いました。すると小倉中尉は、はや枕元に立っているのです。              

「どうもお迎えもせず失礼いたしました。(お茶用の)お湯も沸いておりませんが、どういたしましょう」 

夫人がたずねると、中尉は心配せずともよいとでもいうかのように静かにうなづき、順番に子どもの寝顔を見封しました。そして、子どもの中でも一番体が弱いため、以前から心配していた長女の顔に、ゆっくり自分の顔を近づけていき、もうじき触れるというところで長女が目覚めました。

彼女の「キヤツ」という声で、夫人もハッと正気づきましたが、その後も10分ほどは立っている中尉の姿が見えていたといいます。

さまよい歩く中尉

さて、これだけなら、夫への思いからくる夢の幻影ということでかたづけることもできるのですが、小倉中尉の亡霊は、その足でかつての仕事仲間である橋本良蔵氏の夢を訪ねていたのです。 

同夜、橋本氏は、小倉中尉が枕元に立つ夢を見ました。

「先生じゃありませんか」…橋本氏が驚きの声をあげると、中尉は静かにうなづきました。「今、どこにおられるのですか¶上海にいる」「ご無事でしたか?」「……ここをやられた」

そういうと、中尉は右の腰骨に手をやり、負傷筒所を橋本氏に示しました。それから、ポケットに手をやって手帳を取り出し、開こうとしたのですが、真っ黒に血が固まって容易に開きません。そうしているうちに、朝の4時ごろ、橋本氏は目覚めたというのです。  

あまりにも生々しい夢だったため、夜が明けるのを待って、橋本氏はすぐに小倉夫人を訊ねました。そして、昨夜の夢の話しをしたところ、夫人も同じ幻影を見たことがわかり、時間の経過から、中尉はまず夫人の家に寄り、次に自分の家を訪ねたのだろうということに話は落ち着きました。

  問題は、このとき現れた小倉中尉の亡霊が夫人や橋本氏の無意識がつくりだしたものなのかどうかという点です。

後日判明した事実

 日本に残っている夫人らが、日頃から小倉中尉の生死に心を悩ませていたことは当然です。したがって、そうした思いが、こんな夢となって現れたとしても不思議ではありません。夫人と橋本氏が連続して中尉の夢を見たのは多少珍しいことではありますが、偶然ということもありえますし、夫人の思いが橋本氏に感応したというケースも考えられないわけではないのです。

けれども、後日、このときの小倉中尉の訪問が、まぎれもなく小倉中尉の側から働きかけで起こつたのだということが明らかになりました。

小倉中尉の無二の親友に、加藤氏という福井市の医学博士がいました。この加藤氏が、人を介して小倉中尉の最後の様子を知らせる手紙を受け取ったのです。

それによると、中尉は920日の戦闘で負傷した兵士の応急手当をするために、大隊長の制止を振り切っ前線のほうに出ていきました。            .

そこで迫撃砲の弾片を受け、見る見る青ざめて倒れ込み、崖から転げ落ちて戦死したというのですが、このときの被弾個所というのが、橋本氏が夢うつつの状態で小倉中尉その人から示された「右の腰骨」部分だったということが、中尉の遺体を収容して火葬に付した人からの証言で判明したのです。 

 

夢で浮気がばれた男の話

あこがれの女性と夢でホテルに

 私の知人のケースです。仮にその男性を佐藤さんとしましょう。佐藤さんは10年ほど前に結婚し、子どももいます。夫婦仲は良好で、とくにこれといった問題もないのですが、世間でよくあるように、夫婦関係にちょつとした飽きがきていました。そんなとき、たまたま仕事先で知り合った女性といい感じになり、ひそかにデートまでしてしまったのです。

佐藤さんはかなりの恐妻家なので、デートまではいいが、それ以上関係を深めると危いという自制心が働いて、肉体関係までは結ばなかったといいます。

ただし、内心はそこまでいけたらいいのにという思いでいっばいで、夫婦とのセックスの最中まで、そんなことを考えていました。そのせいでしょう、ついには彼女が夢にまで出てきたのです。

しかも、その夢の中では、彼女をホテルに誘うところまで話が進んでいました。ところが、途中の経過はあいまいなのですが、とにかくいつの間にか彼女がいなくなり、代わって泣き顔の奥さんが出てきたと.ころで夢から覚めました。       

恋心をもつている相手が夢に出てきたら、その印象はきわめて強烈です。夢というフィルターを通すと、相手は実際以上に魅力的で、かけがえのない人のように思えてくることが珍しくないからです。

佐藤さんの場合もそうでした。泣き顔の妻には、ちょつと気の毒な気もしましたが、「なあに、別に妻と別れるとかそんな話しじゃない。ホンの浮気心なんだ」とつごうのいい理屈をつけ、次に彼女と彼女と会う段取りをどうつけようかなどと考えながらその日はウキウキと過ごしたのです。ところがその翌日、奥さんの一言で佐藤さんは冷水を浴びせかけられたようにゾツとし、ただちに浮気の虫をひねりつぶしました。 

浮気心が夢でばれる

「あなた、浮気してない?」…奥さんの第一声はこうでした。

「何をばかなこといってんだよ」…不機嫌そうに佐藤さんがいうと、奥さんはボツリとこう漏らしたといいます。

「夢であなたがデートしてたわ。ネオンのいっばいある盛り場の飲み屋さんで、相手はまだ若い女の人。このところポツポツそんな夢を見てたんだけど、昨夜はホテルまで出てきた。それで私が夢の中で泣いてんの…」

もちろん佐藤さんは、実際にはそんなことはしていません。でも、そうした願望があることはまぎれもない事実でしたし、妻に隠れてデートもしています。それを見透かされたようで、何より自分が見たまさにその夢の中に女房が割り込んできたとしか思えない妻の夢の内容だったので、佐藤さんはいっペんに縮み上がり、浮気の虫もすっかり震えあがってしまったというわけです。

夫婦や恋人、親子などのように、切っても切れな小深い関係にある二人の間では、夢を介したこのような不思議な感応現象が起こります。そしてときには、このようにいずれかに不都合な内容が、夢を通じて明らかになってしまうケースもあるのです。

不二龍彦著「夢にまつわる不思議な話」より

不思議な夢

 

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