「乃梨子ちゃん」
終礼が終わって教室を出ると、もう会いたくないと思った人物に、行き成り会った。
というか、若しかして待ってた?
「待ってたんだよ」
私が今思ったばかりの不安を、こいつは的中させた。
「来て」
そいつはそう言って私の手を取った。
当然、私は拒否する。
「嫌だ」
と。
だが、そいつは、
「却下」
と言って、強引に私を連行していった……。
「ここは?」
私は、なんだか古ぼけた建物に連れてこられた。
「薔薇の館」
薔薇の館……。
今日、昼休みの終わりに、担任が言っていた時に聞いた気がする。
確か、一般的な生徒会室のような物だったと思う。
「で、ここで何をするつもりなんだ?」
「乃梨子ちゃんの解体実験」
「ショッカーかっ?」
「ナイスツッコミ」
とそいつはビシッと親指を立てた。
こいつといると疲れる……。
「さぁ、どうぞ」
私は促されるままに、そこに足を踏み入れた。
そして、そいつの後ろについて、ボロい階段をギシギシと上がった。
「ごきげんよう」
この学校独特な挨拶と共に、そいつはビスケットのような扉を開けた。
「「ごきげんよう、祐巳さん」」
「ごきげんよう、祐巳ちゃん」
「ごきげんよう、祐巳」
中には、既に4人の人間がいた。
髪がふわふわした奴と、みつ編みの奴。
それから、ショートカットの奴と、ロングの奴だ。
顔は、どいつもこいつも胡散臭そうだ。
そいつ等を簡単に説明するとそんな感じだろう。
「その子ね。あなたが今日連れて来たいと言った子は」
「はい、お姉さま」
お姉さまという言葉で、一瞬二人が姉妹なのかと思ったが、直ぐにこの学校には姉妹(スール)という制度があったのを思い出した。
半信半疑だったが、実際に目の前にして、本当にあったのかと実感する。
そして、ウンザリする。
「まぁ、今は人手が足りないし、いいんじゃない?」
ショートの奴が訳の分からない事を言うと、そいつは私の顎を持って、マジマジと顔を眺めてきた。
私は、直ぐにそれを乱暴に振り解いた。
「おぉ、こわっ」
おどけた様なそいつの態度が、ますます私をイラつかせた。
「なんなんだよ、一体。生意気な一年連れてきてシメようってのか?
それとも、タバコ吸ってたことの処分でもあるのか?」
腹ただしくそう言うと、四人は驚いたように目を丸くした。
「祐巳、この子、タバコを吸っていたの?」
「あ〜、まぁ、なんと言いますか……」
あの変な奴が、気まずそうに目を逸らす。
それを見て、ロングの奴の吊り目がますます吊り上がる。
「はっきりおっしゃいっ!」
「はい、吸ってました……」
あの変な奴が縮こまっているのを見るのは、正直面白い。
ただ、その内容が私のやったことについてなのが、純粋に傍観できないところである。
いつ自分に火の粉がこっちに来るか、分かったもんじゃない。
「そこの貴女っ!」
と思ったら、もう飛んできた。
「貴女、タバコを吸うなんて、どういうこと?」
「別に、お前には関係ないだろう?」
私は面倒臭気に頭をかいた。
「そんな問題ではないわ。ここは、学び舎なのよ。貴女はそんな神聖な場所を汚したということが分かってるの?」
私は、そのヒステリックにウンザリしていた。
強引に連れて来ておいて、その上説教とは。
もうキレる寸前だった。
そしたら……、
「お姉さま、ちょっと待って下さいっ」
あいつが間に入ってきた。
「そのことに関しては、もう充分私が叱っておきましたから」
「貴女が?」
「はい。本人も、もう吸わないと言ってましたし、許してあげて下さい」
嘘だ。
そう思ったが、なにも私は、好んでケンカを吹っ掛けたいわけではない。
だから、そもまま黙っていた。
二人は暫く睨み合って――いや、険しい顔をしていたのはロングの奴だけで、あいつはただ微笑んでいた。
そして、暫くそうした後、
「貴女に人を叱る事が出来るとは思わないけど……」
しっかりバレていた……。
だが、そいつは「まぁ、いいわ」と溜め息をつくと、それっきりそっぽを向いてしまった。
どうやら、この話はこれで終わったようだ。
「助けられたなんて、思ってないからな」
私がそう言うと、そいつは、
「それは残念」
と微笑んだ。
こいつには皮肉も通じないようだ。
「じゃあ、これで終わりなら、私は帰るよ」
私は、そう踵を返した。
だが、その腕をあいつが掴んだ。
「ちょっと話が脱線しただけで、まだ何も話してないよ」
と苦笑していた。
「あのね、今日乃梨子ちゃんをここに連れて来たのは、乃梨子ちゃんに山百合会を手伝ってほしいと思って」
「断る。じゃあな」
「ちょっとちょっと」
再び踵を返したが、結局は止められる。
というか、こいつの妙な力強さは何だ?
こんな能天気な顔した奴の、この細腕の何所に、こんな力があるというのだろうか?
「もう少しくらい話聞いてよ」
「あんた、相手見て物言えよ。私みたいなのに、生徒会の役員が務まるわけないだろ?」
「生徒会じゃなくて、山百合会だよ」
「やることは一緒だろ。そもそも、私のガラじゃないし、メリットも無い」
「そんなことないよ」
そいつは自身満々にそう言った。
「乃梨子ちゃん、学校楽しい?」
「いいや」
私は即答した。
楽しかったら、私はこんな性格をしていないだろうし、タバコを吸うこともなかっただろう。
「なら、一週間。取り合えず、一週間だけ、山百合会を手伝ってくれないかな?」
「だから、何故?」
「今の乃梨子ちゃんに必要なのは、楽しいと思えることなんだよ」
「それがここか?」
「別になんだっていいんだよ。取り合えず、私が提案するのはこれ。
ここが、乃梨子ちゃんの居場所になれば、学校だって楽しくなるよ。ねっ、充分、メリットになるでしょ?
それに、合うか合わないかなんて、実際にやってみないと分からないよ」
馬鹿げている。
そう思った。
結局、こいつは推測で言っているだけにすぎない。
ここにいたって、私は何も変わらない。
変わることなんて、出来ない……。
私は、三度背を向けた。
「帰る」
「乃梨子ちゃん?」
「私は、独りでいる時間が好きなんだ。だから、ここでアクセク動く気にはなれないよ」
私が歩き出すと、私を掴んでいた手が、するりと解けた。
私は、ここから出るためにあのビスケットの扉を開ける。
「乃梨子ちゃん」
あいつが呼び掛けてくるが、足は止めない。
「私は、諦めないからね。どんな理由があっても、乃梨子ちゃんはリリアンの生徒なんだよ。
それに、もう私は乃梨子ちゃんと知り合っちゃったんだから。
だから私は、乃梨子ちゃんにも学校生活を楽しんでほしいんだよ。リリアンを、好きになってもらいたいんだよ」
馬鹿らしい。
私は一度も振り返ることもなく、そこを後にした。
乃梨子が出て行った扉を、祐巳はジッと見つめていた。
別に、どうしても山百合会に入ってほしかったわけじゃない。
ただ、楽しいことを見つけてほしかった。
しかし、それすらも乃梨子は拒絶した。
祐巳は大きく、長い溜め息をついた。
気持ちを入れ替える為に。
「祐巳さん」
気付くと、自分の両サイドに同級生の二人が立っていた。
「祐巳さんは、間違っていないと思うわ」
「志摩子さん……」
「そうそう。まだ諦めてないんでしょ?私達に出来る事があれば、何だって言ってね。
祐巳さんの為なら、武蔵坊弁慶の様に、襲いくる矢を全て体で受け止めることも厭わないわ」
由乃のそんな冗談に、少し心が軽くなった。
自分には、困った時には助けてくれる友人がいる。
だから、頑張れる。
「ありがとう、由乃さん。志摩子さん」
祐巳は、乃梨子にとっての楽しいことを、絶対に見付けることを、心に誓った。
「絶対、大笑いさせてやるからね。ガハハって」
「祐巳さん……」
「ガハハって……」
「う?」
本当に大丈夫か?
祐巳を除く全員がそう思った。
「そういえば、さっきの子。祐巳さんが『乃梨子ちゃん』って呼んでたから、下の名前は分かったけど、苗字は何ていうの?」
「え?」
「私達も、自己紹介出来なかったわね」
「………………………」
祐巳はたっぷり10秒の沈黙の後、
「あぁーーーーっ!」
とリリアンの生徒としては相応しくないような悲鳴を上げた。
やはり、祐巳は何所か抜けていた。
やっぱり無理かも……。
祐巳を除く全員が、そう思った……。
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<あとがき>
どうも、『不良少女白書』の第二話、如何でしたでしょうか?
前回の第一話には、たくさんの拍手と感想を頂きました。
本当にありがとうございます。
第二話も楽しんで頂けたらいいなぁと思います。
今回の第二話では、祐巳は乃梨子の居場所を見付けようとしますが、乃梨子はそれを拒否します。
しかし、祐巳が言うことは、私も間違っていないと思います。
今日の中高生は、きっ居場所がなくて困っている人がたくさんいると思います。
この乃梨子のような人には、祐巳みたいな人がきっと救いになると、私は考えます。
さて、第二話は楽しんで頂けましたでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたのなら、それは私にとっての幸いであります。
それでは、また第三話でお会い出来ることを祈っております。
20061211 御神楽 華音