苦々しい煙を肺一杯に吸い込み、鬱積したものと一緒にそれを吐き出す。

「はぁ……」

溜め息をつくと同時に、背中を後ろの木にもたれさせた。
タバコが体に悪いことくらい分かっている。
いや、そもそも自分はまだ未成年なのだから、法律で禁じられている。
けれど、こうでもしないとやり切れないのだ。

時代錯誤な「ごきげんよう」という挨拶。
相手を呼ぶ時は、名前に「さん」を付ける。
極めつけは、姉妹(スール)なんて訳の分からない制度(?)まである。
赤の他人を「お姉さま」だなんて、考えただけでも気持ち悪い。

私は再び煙を吸い込み、フーッと勢いよく吐き出した。

そもそも、受験に失敗したのが運の尽きだ。
半分は自業自得なのだが……。

「しょうがないよなぁ……」

玉虫観音像を見に行くと決めたのは自分。
雪が降ったのは、運が悪かった……。

「だからって、ここはないなぁ……」

こんなところに3年もいられない。
もともと、一人でいることを好むので、クラスに馴染めない程度ならいい。
ただ、イラつく。
あの、何の悩みも無さそうなお嬢様連中を見ていると、イライラする。
何かの拍子に殴ってしまいそうなほど。
そうなれば、停学だろうか。
いや、そもそも、こんな所でタバコなんて吸っていたら、いつかバレるだろう。
そうなったら、停学は免れない。
親を呼ばれるだろうか……。
そしたら、あいつらはどんな顔をするだろうか……。
いや、どうせ……。

「ちっ」

嫌なことを思い出して、私は乱暴にタバコを口にする。
それは、もうフィルター近くまで短くなっていた。
ゆらゆらと浮かんでいる煙に、自分の口の中の煙を重ねる。

「あなた、何してるの?」

不意に、後ろから声を掛けられた。
しかし、別に驚くことはなかった。
ただ、「あぁ、もうバレたか」程度にしか思わなかった。
私は携帯灰皿にタバコを押し込むと、首だけで振り向いて、その人物を確かめた。
そこには、髪を左右に縛った、どこかボケボケしてそうな、鈍臭そうな女がいた。
そいつは、不思議そうにこちらを見ていたが、直ぐに近づいてきて、手を差し出してきた。

「タバコ、吸ってたよね。出して」

私は特に逆らうことなく、ポケットから残りのタバコをそいつに渡した。

「体に悪いよ?」
「あぁ、知ってる」
「じゃあ、どうして吸うの?」
「イラつくから。だから、気分転換」
「ふ〜ん」

そいつはそう頷くと、私の隣に座った。

「あ、隣、良かった?」
「別に」

私は、どうでもよかったので、そう頷いておいた。

「ありがとう」

すると、そいつはそう微笑んだ。
能天気そうで、何も考えて無さそうだ。
そう思った。

「私は、福沢祐巳。あなたは?」
「はぁ?」

私は怪訝そうにそいつを見た。
どうして、いきなり自己紹介なんて始めるのだろうか?
だからここの連中は苦手だ。

「名前。あなたの名前。ユアネーム!」
「あ〜、分かったよ。二条乃梨子だ。これでいいだろ?」

鬱陶しかったので、それだけ言うと、手を頭で組んでさっさとそっぽを向いてしまった。

「うん、宜しくね、乃梨子ちゃん」
「のりこちゃん?」

違和感のある呼ばれ方に、思わず聞き返してしまった。

「何?」
「なんだよ、その乃梨子ちゃんって。私はそんなキャラじゃないぞ」
「じゃあ、ノリちゃん」
「嫌だ」
「リコちゃん」
「止めろ」
「ノリリン」
「ブッ飛ばすぞテメーッ!!」

思わずそいつの胸倉を掴んで怒鳴ってしまった。
だが、少しくらい脅かした方がこんな奴にはいいだろう。
だが、

「可愛いのに」

なんて、プゥッと頬を膨らませていた。

「なんで全部ちゃん付けなんだよ?」
「だから、可愛いから」

あっさり言いのけられて、私は頭を押さえた。
こいつは思考が変だ。

「あのなぁ、私のどこを見たら可愛いなんて言葉が出てくるんだよ?」

私がそう言うと、そいつは、

「顔」

と即答した。
これには流石にガクッと脱力した。

「たく、どこに目ぇ付けてやがんだ?」
「乃梨子ちゃんと同じとこだと思うよ?」
「あっそ」

もう話すのに疲れてしまった。
私はそいつに背を向けて、ゴロンと横になった。

「あ、乃梨子ちゃん、お昼寝?膝枕してあげようか?」
「いらない」
「そっか。でもね、もうチャイムが――」

そいつがそう言うと、まるで見計らったかのように、チャイムが鳴った。

「――鳴るよ…って、鳴ったね」
「…………」
「乃梨子ちゃん、五限目は?」
「フケる」
「そんな不良みたいなこと言わないの」

とそいつは、私の腕を取ると強引に立たせた。
一応抗ったが、ボケボケしているくせに妙にパワーがあり、振り解けなかった。

「乃梨子ちゃん、何組?」
「椿」
「うん、分かった」

そいつは言うが早いか、私の手を掴んだまま走り出した。

「おい、走るのかよ?」
「そうしないと、遅れちゃうよ?」
「いいよ、遅れて」
「ダメ」

そうギャーギャー言い合っていると、結局走って教室に着いてしまった。
叫びながら走ったため、余計な体力を消費してしまった。
息が切れている。

「うん。間に合った」

それなのに、こいつは息ひとつ切らさず、にこにこしていやがる。

「じゃあ、またね」

そして、また走っていった。
しかも、「またね」と……。
こちらとしては、もう会いたくない。

「何者だよ、まったく」

そう毒づいて、頭をガシガシとかく。

「あら、今のは紅薔薇のつぼみではありませんでしたか?」

そんな声がして、振り返ってみると、担任の教師が立っていた。

「ろさ……?」

聞きなれない単語に、つい聞き返してしまった。

「紅薔薇のつぼみ。そういえば、二条さんは外から受験したのでしたね」

担任は一人で納得して、その、ロサ…なんとかってやつの説明をしてくれた。
なんだか訳の分からないことを色々言われたが、あいつが山百合会―一般的な生徒会の人間で、二年生ということは分かった。

(年上かよ……)

あまりそうは見えなかったが、「ちゃん」付けで呼ぶことに拘ったのは、案外それが原因かもしれない。

取り合えず、あの場所にはもう行かないようにしよう。
折角静かで、桜のキレイな場所を見付けたと思ったんだが……。
まぁ、あんな変なのには付き合いきれないし。
タバコも取られたしな。

「あ……」

そこで思い出した。
タバコは取られたが、あいつは一度もタバコを吸っていたことを咎めなかった。
「体に悪いよ」程度のことしか言っていない。

「変な奴」

今日少し話しただけで、何度も思った事だ。
それを、この場にいないあいつに対して、口に出して言ってやった。

取り合えず、私は停学にならずに済みそうだ。

 

 

 

――――――――――――――――

<あとがき>

『ちょっとグレた乃梨子が書きたい』

そんな思いつきで書き始めたのがこれです。
まぁ、私はいつだって思いつきで行動してるので、それはいいとして(いいんかい……)楽しんで頂けました?
続き物になってしまいましたけど……。
なるべく早く更新できるように頑張ります。

タイトルの「不良少女白書」さだまさしの歌のタイトルを拝借。
聴いたことないんですけどね……。
今度レンタル屋で探します。

先週から、web拍手をつけました。
「面白かったよ」という方、いらしたらポチッと押してやって下さいませ。
私のやる気がUPする、筈です。

頂いたメッセージは、日誌の方で返させて頂きます。
ので感想下さい。(ちゃっかり者です)

それでは、またの機会が早く訪れますように祈っております。


20061204 御神楽 華音

 

 


戻る

【運営会社「パラダイムシフト」サービス】

無料ホームページ   携帯ホームページ   無料ホームページ作成   レンタルサーバー   ブログ   ホテル   アンドロイド   レピュテーション・マネジメント・ツール   Timesell   国際通話   ホテル比較