「寒い……」

校舎を出た瞬間、私の口から出た言葉がそれだった。
幾ら12月だからといって、これは寒すぎるだろっ。
今日は天気も曇ってて、風も強いけど……。

私はさっさと薔薇の館まで行くことにした。

乙女のたしなみなんて無視して走り出す。
どうせ歩いても、風でスカートもセーラーカラーもひるがえる。
ならば走ってでも早く寒さを凌げるところに行きたいというのが人の性ではないだろうか。

スカートもセーラーカラーもバッサバッサ乱して走ったおかげで、私はすぐに薔薇の館に到達した。
中に入ると、私は「ふうっ」と息をつく。

実際、ここも寒いのだが、風がない分温かく感じる。

私は、乱れた髪を手櫛で梳かしながら階段を上った。

ビスケット扉を開けると、そこには祐巳さまが、いつもとは違う姿でいた。
いつもは髪を左右で結び、ツインテールにしているのだが、今は下ろしている。
櫛で梳かしているところを見ると、祐巳さまも風で髪が乱れたのだろう。

風は寒かったが、レアな祐巳さまを見れたので、私はちょっとだけ風に感謝した。
本当にちょっとだけね。

「ごきげんよう、祐巳さま」
「ごきげんよう、乃梨子ちゃん。今日は寒いね」
「そうですね。今紅茶淹れますね」
「ありがとう。でもそんなに急がなくても、髪くらい梳かしたら?」

あれ? さっき直したと思ったんだけど、まだどこかはねてたかな?
私はもう一度手櫛で髪を梳かす。
すると、何故か祐巳さまに笑われた。

「私別に今すぐ紅茶が飲みたいわけじゃないから、ちゃんと櫛で梳かしなよ」

どうやら、祐巳さまは私が早く紅茶を淹れる為に、手櫛で済ませたと思っているようだが……、

「でも、私特に櫛とか持ってきてませんし……」

それを聞いた祐巳さまは、信じられない生き物でも見たかのように、

「え、乃梨子ちゃんって本当に女の子?」

なんて言われてしまった。
いや、確かに自分が女らしくないとは思っているけど、そんなストレートに言わなくても……。

「そう言えば、乃梨子ちゃんっていつもその髪形だよね。オシャレとかしないの?」
「う〜ん、特に考えたことないですね」
「じゃあ、普段、どんな服着てるの?」
「服ですか?トレーナーにジーパンが多いですかね?」

休みの日ってあんまり外出ないし。
仏像見に行くのは別として。

「ふ〜ん。なんか、乃梨子ちゃんって、男の子みたいだね」

祐巳さまは笑ってそう言った。

男の子みたい、か……。
本当に自分が男だったら、躊躇うことなく、この思いを貴女に打ち明けるのに……。

なんて、そんなことを考えても仕方が無い。
私は頭を振った。

「じゃあ、今日は私が結んであげる」
「へ?」

全く予想もしていなかった言葉に、私はついマヌケな声を上げてしまった。

「乃梨子ちゃん可愛いんだから、たまには違った髪形にしてみるのもいいと思うよ」

か、かか、可愛いっ?

「そ、そんな…祐巳さまの方が……その…か、かわ……」

私がゴニョゴニョ言っている間に、祐巳さまは私の後ろに回り、私を椅子に座らせた。

「お客さん、今日はどんな風にいたしましょう?」

祐巳さまは私の髪を梳きながら、そんなふうにおどけてみせる。
ちょっと恥ずかしかったが、私はそのまま祐巳さまに任せることにした。
祐巳さまも楽しそうだし。
何より、知らなかったな。
誰かに髪を梳いてもらうのが、こんなにも心地良いなんて。
あ、違うか。
祐巳さまだから、かな。

祐巳さまはあらかた髪を整えると、自分のカバンからゴムを取り出した。
あの100均で売られてる、ちっちゃくてたくさん入ってるやつだ。
しかし、祐巳さまはいつも髪を結んでいるから、ゴムを持っていても不思議ではないが、
いつもリボンで結んでいるので、ゴムを使うことはあるのだろうか?

そう聞いてみると、

「使うよ。例えば、櫛も持ってない後輩の髪を結んであげる時とかね」

いや、そんなことって滅多にないんじゃ……。
そう思っていると、

「私、人の髪を結ぶの好きなんだよ。可愛く結んであげられたら、嬉くなるんだ」

なんだ。じゃあ、誰でもよかったんだ。
そう思うと、少し残念だった。
だからつい、

「じゃあ、私も可愛く結んで下さいね」

なんて言っていた。

「勿論」

祐巳さまはそう言って笑った。

 

 

「はい、完成」

祐巳さまが結んでくれたのは、まぁ一言で言えば三つ編みなんだけど、ただ三つ編みにするのではなく、
私の横の髪を少しだけ摘み、小さな三つ編みをしてくれた。
つまり、見た目いつものおかっぱ頭なんだけど、それにアクセントとして小さい三つ編みがある感じ?
伝わるかな? いや、そもそも私は誰に説明してるんだ?

鏡を見て、やっぱり私には可愛い髪形なんて似合わない。
そう思った。
けど、祐巳さまが結んでくれたことが嬉しくて、私はその三つ編みをそっと撫でた。

「どう? 可愛いでしょ?」

祐巳さまはそう言ってくれたけど、自分で自分を可愛いとか言えるわけもなく。
いや、寧ろ思えないけど……。
だから、私は、

「こんな小さな三つ編みが出来るなんて、祐巳さま器用なんですね」

と言った。

「そこ?」

祐巳さまは、少し不満そうに、けれど、やっぱり楽しそうに笑った。

 

―――――――――――――――――――

<あとがき>

ご無沙汰しています。御神楽華音です。
もう11月ですが、今年最初のSSになります。
今まで何をしていたか、その言い訳は後で日誌にて綴ろうと思います。

さて、今回の話ですが、保育園で子どもの髪を結んでいて思いつきました。
自分はあまり上手に結んであげられませんが、少しでも子どもを可愛くしてあげたいなと思い、浮かんだのがこの話です。

三つ編みを編んでもらったってことでタイトル「アミアミ」になってますが、そんなに三つ編みメインではないですね……。

寒くなって、クシャミ、鼻水が止まりません。
その所為で頭もボ〜っとします。
そんな頭で書いたSSなので、どんな出来なのやら心配です。

ずっと放置していましたが生きてます(苦笑)
次がいつになるかは分かりませんが、自分なりのペースでゆっくりやっていきたいなと思います。
長い目で見てやって頂けると嬉しいです。

では、毎日寒いですが、この話で少しでもホッと一息入れて頂けたのならば、私にとってそれ以上の幸福は御座いません。
またの機会がありますことを、心よりお祈り申し上げます。

 

2008.11.24. 御神楽 華音

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