「はい、祐巳さん。あ〜ん」
「祐巳さん。次はこっちを食べてみて」
「いや、あの…だから、自分で食べられるから……」

祐巳が、由乃と志摩子と付き合い始めた次の日。
少し不思議な恋人たちの最初のイベント(?)は、

一緒にお弁当だった……。

 

 

 

「ふ、二人とも、私、自分で食べられるから……」

何故、昨日、

「明日はお弁当は持って来ないでね」

と言われた時、こうなることを予想出来なかったのだろうか……。
祐巳は自分の鈍さを呪った。

二人はそれぞれお弁当を作ってきて、それを交互に祐巳に食べさせているのだ。
普通サイズのお弁当を、半分づつ食べるということで、別に量に問題ない。
ただし、いくらここが薔薇の館で、三人しかいないとしても、流石に、「あ〜ん」は恥かしい。
なので、必死に抵抗を試みているのだが、

「祐巳さん、食べてくれないの?」
「料理はあまり得意じゃないけど、祐巳さんの為に、一生懸命作ったのよ?」

なんて、瞳を潤ませながら言われたらもう、食べないわけにはいかないでしょ……。
正直、ズルイと思うが、自分がそれに屈してしまうのだか仕方が無い。
箸が2膳しかないというのも始末が悪い。
完全に確信犯だ。
そして、

「どう?」

オカズを口に運ぶごとに感想を聞かれる。
勿論、二人が自分の為に作ってくれた物だ。
美味しくないはずはない。

「美味しいよ」

素直な感想を口にすると、それまで不安そうだった顔が、ほっと和らぐ。

「良かった〜」
「祐巳さんの口に合うか、心配だったの」

そんな二人は、間違いなく恋する乙女で、祐巳はそんな二人を素直に可愛いと思った。
今まで二人と友達をやってきたけど、二人のこんな表情を祐巳は見たことなかった。
それはきっと、友達から一歩踏み込み、恋人同士となったことで表れた、二人の本当の姿ではないかと思った。
ただ、

「は、祐巳さん。あ〜ん」

やっぱりこれは恥ずかしい……。

「あっ」

不意に、志摩子が声を上げた。
志摩子が祐巳の口におかずを運ぶ途中、誤ってマヨネーズが祐巳の頬に付いてしまった。

「ごめんなさい、祐巳さん」
「平気だよ。大丈夫」

そう言って、祐巳は頬のマヨネーズを拭おうとした。
しかし、それより先に、志摩子の指がそれをした。
そして、志摩子は躊躇い無く、それを自分の口に含んだ。

「し、志摩子さん……」

祐巳は、元から赤かった顔を、ますます赤くした。

「なに、どうかした?」

対する志摩子は特に気にした様子も無い。
なので祐巳も、

「なんでもない」

と首を振った。
ただし、それを見過ごせないのが由乃である。

「ちょっと、ずるいわよ。志摩子さんだけそんな風に祐巳さんとイチャついて」

(さっきまで由乃さんとも充分イチャついてたよ)

祐巳はそう思ったが、勿論口には出さない。

「私もやるわ。祐巳さん、もう一回マヨネーズつけて」
「えぇ、嫌だよ。恥ずかしいし」
「そんな、祐巳さん。私とのことが恥ずかしいって言うの?」
「そうじゃなくて、さっきみたいなことをするのが恥ずかしいって言ってるの」
「一回やったんだからもう一回くらいいいじゃない」
「そういう問題じゃないよ」

すると、由乃は頬をプゥっと膨らませると、

「なによ、志摩子さんは良くて私はダメなの?じゃあもういいわよ」

そう言ってプイッとそっぽを向いてしまうと、一人でガツガツとご飯をかきこんだ。
そうやってかきこんだ拍子に、ご飯粒が頬に付いたが、由乃は気付いていないようだ。
祐巳は仕方ないなぁと溜め息をついた。
多分、由乃の機嫌を直すのは、これが一番効果的だろう。

「由乃さん、ご飯粒付いてるよ」

そう由乃の頬からご飯粒を取ると、それを自分の口に入れた。

「あっ……」

由乃はポツリと声を漏らすと、その顔を見る見る赤く染めていった。
そして、

「祐巳さん、ありがとう」

真っ赤な顔のまま、満面の笑みを浮かべた。

「良かったわね、由乃さん」
「えぇ、今日のところは引き分けかしらね」
「えぇ、そうね」
「引き分け?何が?」

自分の分からない話をされて、祐巳は首を傾げる。

「勿論、どっちが祐巳さんの愛を手に入れるでしょう対決よ」

(何それ……。)

「今は二人と付き合っていても、いずれは一人に絞ってもらう予定ですもの」

祐巳の考えを読んだかのように、志摩子がふんわりと微笑む。

「一応、抜け駆けは無しってことになってるけど、心の中ではいつでも祐巳さんを狙ってるってことよ」

と由乃が不敵に微笑む。

「祐巳さん、覚悟しておいてね」
「必ず、祐巳さんに私だけを好きと言わせてみせるわ」
「あ〜、お手柔らかに……」

二人と付き合い出したのは、早まったかもしれないと、少しばかり思った。
その反面、無邪気な二人の笑顔を見ていると、こういった関係も悪くないかなと思う自分もいる。

(ごめんね)

祐巳は心の中で、二人に謝った。

(もう暫くは、一人に絞れそうもないや。もう暫くは、今のままでいたいから)

だから、祐巳は言った。

「私、二人のこと大好きだよっ」

とびっきりの笑顔と共に。
その笑顔に、二人は顔を赤に染めた。
そして、ひとつ溜め息をつくと、

「「私たちも、祐巳さんが大好きよ」」

そう言って、二人で祐巳を抱きしめた。

 

 

まだつづきます?

――――――――――――――――

あとがき

公認ふたまた騒動。
第二話完成です。
如何でしたでしょうか?
眠たい頭で書いたので、おかしい部分がないか心配です。
ノリで始めたこの話。
どこまで続くのでしょうか?

「はい、あ〜ん」というのは、自分の中でかなり「クル」セリフです。
なので、どうしても二人にやってほしかった。
そして、頬に付いたご飯粒を食べるというお約束。
使い古されていると言えばそうなんですが、これも私は結構好きだったりします。
そんなこんなで、今回は結構甘く仕上がったのではないかと思っています。
甘い話は書いてて楽しいです。

さて、ここまで読んで下さり、ありがとうございました。
楽しんで頂けたのなら、私にとってそれ以上の幸せは御座いません。
では、またの機会がありますことを、お祈り申し上げます。

20060407 御神楽 華音

 

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