「「祐巳さん、私と付き合ってほしいの」」
「へ?」
ある日の放課後。
この日は山百合会でのお仕事も無く、早く帰ってテレビでも見ようかと思っていた。
そう思って教室を出ようとしたところで、由乃と志摩子に呼び止められた。
二人は「ちょっと話したいことがあるから来てほしい」とのことだった。
そして、二人に連れられて、温室までやってきた。
そこでいきなり二人が言った言葉が、冒頭のセリフである。
「えっと、どこか行くの?別に今日は用事ないからいいけど。
あれ、でもそれなら温室まで来る必要はなかったんじゃ?」
そう言う祐巳の肩を、由乃がポンっと叩く。
「祐巳さん、ボケとしても面白くないし、今はそんな話はどうでもいいわ」
別にボケちゃいないけど……。
「祐巳さん、私たちね、祐巳さんのことが好きになってしまったの。
だから、祐巳さんと恋人同士になれたら、って思うのよ」
「そういうことよ」
祐巳の為に分かり易く(?)説明する志摩子に由乃が相づちを打つ。
「ここっこここっこ、コイビトォォォッッ?」
対する祐巳はニワトリを連想するようなドモリっぷり。
「そこまで驚かなくても……」
由乃は苦笑して、頬をカリカリとかいた。
「驚くよ。え、どうして?どうしていきなり恋人なんて単語が出てくるの?
そもそも、私たち、女の子同士なんだよ。恋人になんてなれないよ」
軽く混乱している祐巳は、そう早口に捲くし立てた。
「確かに、ここにいる三人はみんな女子。普通に考えたら、恋人なんておかしいかもね。でも……」
「それでも私たちは、祐巳さんのことが、好きになってしまったの。ただの友達ではなく、特別な存在になりたいの」
(本気だ……)
二人の目を見て、そう思った。
二人とも本気で、自分のことを好きになってくれたんだ。
けれど、どちらかを選んで、恋人になるなんて、考えられなかった。
「私、由乃さんも、志摩子さんも大好きだよ?一番の友達…親友だと思ってる。
それって、特別なことじゃないかな?それじゃあ……ダメ、かな……?」
「ありがとう、祐巳さん。そう言ってもらえると、凄く嬉しいわ。でも、親友って、結局は友達じゃない?友達は、キス、しないでしょ?」
「私はね、祐巳さんを、おもいっきり抱きしめたい。祐巳さんに、キスしたい。それは、友達じゃできないから……」
(あぁ、二人の特別と、私の特別は違うんだ……)
二人の気持ちに答えられるものなら答えたい。
しかし、二人のどちらかを選ぶことなど、やはり出来そうになかった。
「ごめん……。私は、由乃さんも、志摩子さんも、大好きだから…だから、どちらか一人を選んで、恋人になんてなれない……
ごめん…ごめん……」
どちらも選ばないという選択は、きっと二人とも傷付けてしまうことになるだろう。
それでも、自分にはその選択しかなく……。
ただ、謝ることしか出来なかった。
目からは涙が溢れてきて、それは止まることなく、地面に落ち、そこにシミを作った。
「泣かないで、祐巳さん。私たちは、祐巳さんを悲しませたいわけではないわ」
志摩子は、ポロポロと涙を流す祐巳を、そっと抱き寄せた。
志摩子の髪からは、甘いシャンプーの香りがした。
「そうよ、祐巳さん。私たちは別に、祐巳さんにどちらかを選んでもらう為に、今日ここに連れてきたわけじゃないんだから」
「え?」
「祐巳さんは優しいから、どちらか片方を選ぶことが出来ないのは分かっているわ」
「だから、そんな優柔不断な祐巳さんに、素敵な提案があるわ」
由乃はそう言ってにっこりと笑った。
ただ、祐巳は知っている。
由乃が考えつくことが、いつもハチャメチャなことを……。
そんな祐巳の不安を的中させるかのように、由乃は言った。
「祐巳さんが、ふたまた掛ければいいのよ」
「へ?」
「だから、祐巳さんが、私と志摩子さんの、両方と付き合えばいいのよ」
………………………
…………………
……………
………
…
・
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
祐巳がそう悲鳴を上げたのは、きっかり五秒間思考を停止させた後だった。
「どどどどどどど、どうしてそんな結論になっちゃうの?」
「え、だって、私も志摩子さんも祐巳さんと恋人になりたい。で、祐巳さんはどちらかなんて選べない。
だから両方と付き合う。完璧な論理よ」
「それ多分論理って言わない。それに、志摩子さんはそれでいいの?」
どう考えても、一度に二人の人間と付き合うなんて普通では考えられない。
だから、常識人である志摩子なら、由乃を止めてくれるであろう。
そう思って志摩子に聞いたのだが……。
「えぇ。祐巳さんが恋人なんて、それに勝る幸福はないわ」
どうやら、志摩子も由乃の提案に異存は無いようだ。
「それに、最終的に、私が祐巳さんを振り向かせればいいわけだし」
「あら、奇遇ね。私も志摩子さんと同じこと考えてたわ」
「そう、それは本当に奇遇ね」
そう言って、二人は笑顔で睨み合った。
(あぁ、二人とも壊れちゃってるよ〜)
祐巳は頭を抱えた。
しかし、二人を壊したのは、当の祐巳本人だということに、気付いていない……。
「さぁ、祐巳さん、どうする?もっとも、私の提案が受け入れられない場合、無理やりにでも、どちらかを選んでもらうけど?」
「うっ……」
そう言われてしまえば、祐巳に退路はなかった。
「分かった……。二人の…恋人になるよ……。って、ひゃぁっ」
そう言った瞬間、祐巳は二人に抱きしめられた。
「ありがとう、祐巳さん」
「これからよろしくね」
二人に抱きしめられて、何故だかドキドキした。
きっと、雰囲気に酔ったんだ。
きっと、そうだ……。
つづく?
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あとがき
こんにちは、御神楽 華音です。
「恋人二人っていいかも」
そんな思いつきからこの話は出来ました。
一応は続き物の予定ですが、どこまで続けるかは分かりません。
結構ノリで書いちゃったので……。
今回、初めて由乃と志摩子を書きました。
初めてだったのでちょっと難しかったです……。
感想等頂けると喜びます。
さて、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
如何でしたでしょうか?
楽しんで頂けたのなら幸いです。
では、またの機会がありますことをお祈り申し上げます。
20060331 御神楽 華音