「ねぇ、二人とも、歩きにくくない?」
「全然」
「えぇ祐巳さんと腕を組んで歩いているんですもの。そんなこと、ちっとも気にならないわ」
「そうですか……」

今日は、三人での初デート。
由乃は、祐巳の右腕に自分の腕を絡めて、志摩子は左に。
両腕を組まされている祐巳は、何だか連行されている気分だった。
おまけに、両サイドから香る、二人の甘い匂いや、腕から伝わる温もりが、何だか自分をドキドキさせた。

 

 

「ねぇ、由乃さん。今日は由乃さんが服を買いたいから付き合ってって言ったよね?」

今日のデートは、由乃から誘われたもので、理由は今祐巳が言った通りだ。
だが、何故か今由乃は祐巳の服を選んでいる。
目に付いた物を手に取って、祐巳に当てる。
そして、あーでもない、こーでもない、と志摩子と討論している。

「私のなんて後でいいわよ。それより、今は可愛い祐巳さんを、如何にしてもっと可愛くするかの方が重要よ」
「そうね。由乃さんが何を着ようが全く興味ないもの。祐巳さんの方が重要ね」
「えぇ、私も志摩子さんはどうでもいいわ」

ふふふっと二人は笑顔で睨み合う。

(恐いんですけど……)

そう思っても、二人と付き合いだしてからは、よくあることなので、祐巳には溜め息を吐くことしか出来ない。

「やっぱり祐巳さんには水色よ」
「そうかしら。ピンクの方が似合うと思うわ。そう、祐巳さんの紅と私の白が合わさった色が」
「な、なんですって!だったら私も、紅と黄色が合わさった、オレンジを薦めるわ」

(それ、私に似合うより志摩子さんに対抗してるだけでしょ?)

「ねぇ、祐巳さんも、ピンクがいいわよね?」
「勿論、オレンジよね?」
「え、え〜っと……」

二つの服を目の前に持ってこられ、祐巳はたじろぐ。

「あ〜、うん。二つとも、可愛いよね」
「そんなことは分かってるわよ。祐巳さんは何を着ても可愛いんだから」
「いや、そんなことは……」
「でも、私たちが聞いてるのは、どちらの方を、より祐巳さんが気に入ったってことよ」
「う、う〜ん……」
「ただ好みを言ってもらえばいいのよ。別に私と志摩子さんと、どっちが好きかなんて聞いてないんだから」
「う、うん……。じゃあ……」

正直、由乃の言うことに今一信憑性がなかったが、一応は信じることにして、もう一度二つの服を見比べた。

「どちらかと言えば、志摩子さんが選んでくれた方が好み、かな……?」

祐巳がそう言うと、志摩子はまるで花が咲いたように笑顔になり、対照的に由乃はがっくりと項垂れた。

「やっぱり、私の方が祐巳さんの好みを良く理解しているということね」
「な、なによ。たまたまでしょ?」
「ふふ、負け惜しみにしか聞こえないわね」
「うぅ…、きぃぃぃぃぃぃっ!」

余程悔しかったのか、由乃は奇声を上げた。

「あ、あの、由乃さん。由乃さんが選んでくれた服も、私好きだよ」
「ホントに?」
「うんっ、本当に」
「うぅ、祐巳さんっ!」
「わぁっ!」

感極まったのか、由乃は祐巳にガバッと抱きついた。

「ちょ、由乃さん?」
「やっぱり祐巳さん優しい。だから好き」
「由乃さん、恥ずかしいよ。放して…って、どうして志摩子さんまで抱き付いてくるの?」

由乃に気を取られているうちに、後ろに回った志摩子にも抱き付かれていた.

 

「あら、私だって祐巳さんが好きなんですもの。由乃さんだけなんてズルイわ」
「だからって……」

こんな店の中では止めてほしい。
周囲の目が気になってしょうがない。

「それじゃあ祐巳さん。これ着てみて」

一頻り祐巳を抱きしめて満足したのか、由乃は持っていた服を祐巳に差し出した。

「え、私が?」
「他に誰がいるのよ」
「いや、由乃さんが着た方が似合うよ、きっと」
「じゃあ、祐巳さんの後に着るわ。先に祐巳さん」
「うぅ…分かった……」

恐らく、何を言っても無駄だろう。
祐巳は観念して、その服を着ることにした。

「祐巳さん」

靴を脱いで、試着室に入るところで、志摩子に呼び止められた。

「その次は、これも着てみてね」

にっこりと微笑み、服を体の前で掲げる。
それが可愛くて、祐巳は一瞬言葉を失った。
そして、思いついた。

「うん。それなら、志摩子さんが先に着て。隣の試着室空いてるし、その方が、効率がいいよ」

勿論、これは建前だ。
きっと、あの服も自分より志摩子の方が似合う。
そう思ったから、志摩子がそれを着ている姿を見たくなった。

「そうね、祐巳さんがそう言うなら、着てみようかしら。本当は祐巳さんが着た後にしようと思っていたのだけれど、
私が着た後のを祐巳さんが着るというのもいいわね」
「志摩子さん。あなた、今すっごくオヤジみたいよ」

由乃が呆れて突っ込みを入れる。

「あら、それなら由乃さんはオヤジではないのね」
「当たり前でしょ」
「なら、祐巳さんが着た後の服を着ることになっても、何も感じないのね。
『これ、祐巳さんがきたんだ』とも思わずに、そこから邪な劣情も催さないのね。
0.1パーセントも変な気分にならないとマリアさまに誓えるのね」
「え、いや、その……」
「なら、棚にまだ同じサイズの服があったから、それに取り替えてもいいのね」
「スイマセン。オヤジでいいから祐巳さんが着た後のを着させて下さい」
「由乃さん。もう少しプライド持とうよ……」

しかも、目の前でそんな話をされては、凄く試着し難い。
本当に勘弁してほしい。
こんな話にマリア様を持ち出しても、いい迷惑だろう。
祐巳は溜め息をひとつ吐き、試着室に入った。


てんやわんやはあったが、取り合えず、祐巳は初めに由乃の選んだ服を試着することになった。
隣では志摩子が同様に試着している筈だ。

「祐巳さん、着れたかしら?」
「うん、オーケーだよ」
「なら、せーのでお互いに見せ合いましょうか」
「うん、分かった」

「「せーの」」

カシャッ

「……………」
「……………」
「……………」

「「「可愛いっ」」」

三人の声が重なる。

「志摩子さん、すっごく可愛いよ」
「あらがとう、祐巳さんもとても可愛いわ」
「やっぱり、祐巳さんに似合うのはオレンジね」

由乃が満足そうにうんうんと頷く。

「そうね。由乃さんが選んだにしては良く似合っているわ。やっぱり、素がいいのね」
「志摩子さんって、いつも一言余計よね」
「大丈夫よ、由乃さんにだけだから」
「それはどうもありがとう」
「どういたしまして」
「皮肉よ」
「まぁまぁ二人とも」

(直ぐにこうなるんだから……)

祐巳はまた今日何度目かの溜め息を吐いた。
尤も、二人とも本気でケンカしているわけではないから、こうやって笑っていられるのだけど。

それから、三人で服を交換し合って、何着か試着した。
二人とも、どの服を着ても、自分のことを可愛いと言ってくれたが、やっぱり自分なんかより、二人が着た方が断然似合う。
そう思った。

結局、由乃は服を買うことなく、その店を後にした。
由乃曰く、

「祐巳さんが着た方が可愛いから」

だそうだ。
そんなことないのに、と祐巳は思ったが、本人が買う気のない物を薦めても意味がない。
志摩子の方はというと、

「私は別に服を買う為に来たのではないわ。祐巳さんの色々な洋服姿を見たかっただけよ」

だそうだ。
これには流石に少し呆れた。

そんなこんなで、楽しい時間はあっという間に過ぎ、辺りはすっかり夕焼け色に染まっていた。

「それじゃあ、祐巳さん。今日は楽しかったわ。ありがとう」
「うん。私も楽しかったよ」

別れ際、手を振る二人に、自分も同じ様に手を振る。

「じゃあ、また明日ね」

そう言って、踵を返した祐巳に、ガバッと何かが覆い被さった。
何かが、といっても、この場合、由乃と志摩子しかいない。

「ちょ、何、二人とも?」

抱きつかれるのは、初めてではなく、寧ろしょっちゅうであるのに、毎回ドキドキしてしまう。

「祐巳さん、忘れ物だよ」

そう耳元で囁かれると、ゾクッとなる。

「な、何?」
「恋人がデートをして、別れ際にすることと言えば、決まっているでしょ?」

その言葉の直後、

ちゅっ

頬にふれる、柔らかな感触。
それも、ひとつではない。
二つだ。

「え、あ、あの…い、今…もしかして……」
「お別れのキスよ」
「唇でないのは残念だけど、それは祐巳さんが、私を一番好きって言ってくれる時まで取っておくわ」
「あら、それは本当に残念ね。なら由乃さんは永遠に祐巳さんとキス出来ないわね」
「そのセリフ、そっくり返すわ、志摩子さん」

祐巳を抱きしめたまま、また二人の口喧嘩が始まったが、祐巳はもうそれどころではなかった。
恐らく顔は真っ赤であろうし、心臓はこれでもかって程にバクバクいっている。

「あ、あれ、祐巳さん?」

祐巳の様子がおかしいことに気が付いたのか、二人が顔を覗き込んでくる。

「……ぃ…よ……」
「え?」
「ズルイよ、二人とも。いつもそうやって不意打ちで、私をドキドキさせるんだから」
「祐巳さん?」
「だから、これはそのお返しだよ」

そう言うが早いか、祐巳は素早く由乃と志摩子の頬にキスをすると、二人から離れた。

「また明日ね、ごきげんよう」

そうして、二人を残して祐巳は走り去っていった。
後には、顔を真っ赤にした由乃と志摩子が残された。

「やられたわね……」
「そうね……」
「柔らかかったわね、祐巳さんの唇……」
「そうね……」
「………………」
「………………」

「あぁぁぁぁぁぁっっ!」

耐え切れなくなったのか、由乃は叫んだ。

「もう、祐巳さん可愛すぎ」
「えぇ、ますます好きになってしまったわ」
「うん、だから、やっぱり祐巳さんは志摩子さんには渡せないわ」
「あら、それはこっちのセリフよ」

そうやって、二人は熱く視線を交わした。
それはもう、漫画やアニメなら火花が飛ぶほどに。

「でも、結論を出すのは祐巳さんだからね」
「そうね、そればっかりは、自分達ではどうしようもないわね」
「えぇ、まぁ、お互い頑張りましょう」

しかし、当の祐巳本人は、二人とも大切で、二人とも大好きなのだ。
由乃提案のふたまた策により、それが一層強くなった。
なので、二人の勝負の決着がつくのは、当分先の話である。

…いや、そんな日来るのか?
それこそ、マリア様のみぞ知る―――

 

 

え、まだ続くんですか?

―――――――――――――――――

あとがき

はい、「公認ふたまた騒動」第三話をお届けしました。
如何でしたでしょうか?

今回は初デートの話です。
甘くなるよう心掛けたつもりです。
さて、お味は?

この話はいつまで続けることが出来るのでしょうか?
ネタが尽きるのも、きっとそう遠くない……。
それまで、もう暫くはお付き合い下さいませ。

それでは、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
楽しんで頂けたのなら、それに優る幸せはございません。
では、またの機会がありますことを、お祈り申し上げます。


20060424 御神楽 華音

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