「祐巳さん。食べて直ぐに寝ると牛になるわよ?」
「そんなこと言ったって、志摩子さんの膝枕の誘惑には勝てないよ」
「別に誘っているつもりはないのだけど……」
「志摩子さん本人がそうでなくても、志摩子さんの膝が誘ってるんだよ」

祐巳がそう言うと、志摩子は

「あら、そうなの?」

と微笑んだ。

最近、お昼はいつも志摩子と一緒だ。
そして、食べ終わると志摩子の膝にねっころがる。

クラス替えで別のクラスになり、代わりに由乃と同じクラスになった。
普通なら、由乃といる時間が増えるような気がする。
しかし、実際離れてみて分かる。
志摩子の傍の、なんと落ち着くことか。

自分に膝を貸してくれている人物は、ただそっと髪を撫でてくれた。

「本当だよ?志摩子さんの膝、すっごく気持ちいいもん。志摩子さんは残念だね。ここに寝れなくて」
「ふふ、そうねっ」

可笑しそうに、ころころと笑う志摩子。
その笑顔が何だかまぶしくて、祐巳は目を細めた。

「でも、祐巳さんをこうして膝枕しているのも、気持ちいいわよ」
「え、そうなの?」
「えぇ。祐巳さんの重みが、膝から伝わってきて、何だか落ち着くわ」
「そ、そう……?」

そんなことを言われては、恥ずかしくてまともに志摩子の顔を見れない。
祐巳はそっと志摩子から視線を外した。
そして、横目でチラッと志摩子を盗み見ると、志摩子はいつものように、優しく微笑んでいた。

――落ち着く。

先程の、志摩子の言葉を反芻する。
志摩子が、自分と同じことを思ってくれていたとこが、何だか嬉しかった。

祐巳は、自分の目の前でふわふわと揺れている、その髪にそっと手を伸ばした。
やはり、それはいつ触れても柔らかかった。

「いいなぁ、志摩子さんの髪は柔らかくて。私なんて、もうくせっ毛で……」
「そうかしら?私の髪なんて、細すぎて、雨の日はごわごわになって困るわ」
「それでも、私の髪よりいいと思うけどなぁ……?私もウェーブかけてみようかな?」

祐巳は志摩子の髪から手を放し、次に自分の髪に手をやる。
軽く落ち込んだ……。
因みに、くせっ毛で軽くうねっているのはウェーブとは言いません!
えぇ、断じてっ!

「祐巳さんがウェーブ……?」

志摩子は口元に手をやって、軽く首を傾げた。
祐巳のウェーブ姿でも想像しているのだろう。

「そうね、祐巳さんなら、きっとウェーブにしても似合うと思うわ。
けど、私は今の祐巳さんの髪形、好きよ?」
「え?」

途端に、祐巳の体温が一気に上昇した。
別に、髪形のことであって、自分のことではないのに……。

「で、でも、ツインテールって、子どもっぽくないかな?」
「あら、可愛らしくて、よく似合ってるわ」
「そう?」

そこで、祐巳は起き上がって、志摩子の髪に手を伸ばした。

「祐巳さん?」

不思議そうにする志摩子を尻目に、祐巳は志摩子の髪を、横にふたつに分けた。

「うん。志摩子さんがツインテールにしても、可愛いよ」
「そ、そうかしら?」

祐巳にそう言われて、次は志摩子が頬を赤く染めた。

「うん。あ、でも、やっぱり勿体無いかな?この髪をくくっちゃうのは」

祐巳は志摩子の髪から手を放し、もう一度それを指先で撫でた。
それは水のように、するすると指をすり抜けていった。

「やっぱり、志摩子さんはこのままの方が似合ってる」
「ふふっ。ありがとう」
「さて、じゃあ折角起きたし、交代しようか?」
「え?」

脈絡無い祐巳の言葉に、志摩子が首を傾げる。

「膝枕。今度は私がしてあげる」
「え、そ、そんな、いいわよっ」
「まぁまぁ、結構気持ちいいから、騙されたと思って」

恥ずかしがってか、遠慮する志摩子を、多少強引に自分の膝へ。
祐巳の膝の上に頭を乗せた志摩子は、祐巳と目が合うのが照れくさいのか、祐巳から目線を外した。

「どうですか〜、お客さん?」

おどけた調子で言う祐巳に、志摩子は苦笑を浮かべて、

「えぇ、気持ちいいわね」

と目を細めた。

「志摩子さんが言った通り、する側も気持ちいいね。こうしていると、志摩子さんを凄く近くに感じられる」
「そうね。祐巳さんの膝の上にいると、暖かくて、心地良くて、――まるで、お風呂の中にいるみたいね」

祐巳は、志摩子がしてくれてたように、志摩子の髪をそっと撫でた。
すると、志摩子も手を伸ばし、自分の髪に触れてくる。

「好きよ、祐巳さん」
「うえぇっ?な、何、突然?」

途端に、体中の血液が顔に集まってくる感覚がした。
恐らく、今の自分の顔は真っ赤であろう。

「言いたくなったのよ。突然に」
「そ、そう……」

祐巳はそれだけの言葉を、素っ気無く言った。
そして、その変わりに、祐巳は腰を折った。
もう一度志摩子の髪を撫でると、祐巳は志摩子の唇に、そっと口付けした。

顔を上げると、志摩子がいつものように微笑んでいた。

 

 

 

―――――――――――――――

あとがき

私は、膝枕というシチュエーションが大好きです。
なので、この前祐巳と乃梨子でやったばかりのネタを、今度は志摩子でやってしまいました。
如何でしたでしょうか?
楽しんで頂けたらいいなぁと思います。

今回は、志摩子に甘える祐巳と、祐巳に甘える志摩子の両方を書けて楽しかったです。

では、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
暑い季節ですが、冷たい物の食べすぎ飲みすぎ等にお気をつけ下さい。
それでは、またの機会がありますことを、お祈り申し上げます。


20060727 御神楽 華音


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