「ゆ〜みっ」
「うゎっ、って乃梨子ちゃん?もう、学校ではダメって言ってるでしょ?」
「え〜、いいじゃん。私と祐巳の仲なんだし」

そう言うと、乃梨子は離れるどころか、益々祐巳にくっついて、祐巳の肩に顔を埋めた。
祐巳は「しょうがないなぁ」と苦笑しつつも、満更ではなさそうだ。
しかし、薔薇の館でこのような行為が行われ、黙っていることの出来ない人物もいる。

「乃梨子ちゃん、私の祐巳から離れなさい」

祥子はぷるぷると肩を震わせながら言った。
手にもギュッと力が込められ、手の中のシャーペンは今にも折れそうだ。

「え、何を言っているんですか、紅薔薇さま。祐巳は私のものですよ」

対する乃梨子は、「私の」という部分を強調して、更に祐巳をギュッと抱きしめる。

「なんですって?祐巳は私の妹なのよ」
「えぇ、ですがそれだけですよね?でも、私は祐巳の恋人です。ですから、祐巳の全ては私のものです」
「な、なんですって〜っ」

乃梨子のその一言で、祥子の手の中のシャーペンがバキッという音を立てた。
そして、その音が試合開始の合図だ。

(あ〜、今日も始まっちゃった……)

もう毎度のこととなる口論を、祐巳はぼんやりと聞いていた。
初めのうちは祐巳も止めようとしていたのだけれど、すぐに手に負えないと判断して、ただの傍観者に成り下がった。

「毎日毎日、よく喧嘩できわよね〜」

最初から傍観者である由乃は呆れ半分、感心半分と、暢気の紅茶を啜った。

「祐巳さんがいる限り、二人は何処でも喧嘩出来るのではないかしら?」

最初からの傍観者その2の志摩子は、楽しそうにそれを眺める。

「志摩子さんは寂しくないの?乃梨子ちゃんを祐巳さんに取られちゃって」
「そうね、寂しくないと言えば嘘になるけど、でも大丈夫よ。私には由乃さんがいるもの」

志摩子はそう微笑むと、自分の手を由乃のそれにそっと重ねた。

「なっ!」

途端、由乃は顔を真っ赤にして、

「もう、すぐそういうこと言う」

と、ぷいっと顔を逸らした。

「本当よ?」

逸らされた分を追いかけるように、志摩子は由乃の顔を覗きこんだ。

「あ、ありがとう……」

もうそれ以上顔を逸らすことの出来ない由乃は、益々顔を赤くして、それだけぽつりと言った。

(よ、由乃〜……)

そんな二人の光景を、令が寂しそうに眺めていた。

(あぁ、いいなぁ……。あっちのカップルはほのぼのしてて)

祐巳は祐巳で、二人を眺めながら、未だに言い争っている我が姉と恋人を思い、溜め息を吐いた……。

 

 

 

 

「もう、どうして毎日毎日喧嘩するかなぁ……」

一向に喧嘩が収まる様子がなかったので、今日はもう仕事にならないと、祐巳は乃梨子を連れて帰ることにした。
祥子も追いかけてきそうな勢いだったけど、それは令が抑えてくれた。

「だって……」

乃梨子も、あれで祐巳を困らせていることが分かっているので、叱られても反論が出来ない。

「私ヤだなぁ。好きな人たちが喧嘩するのは」
「…うよ…………しは……」
「え?」
「そうよ、だから私は、紅薔薇さま――祥子さまが嫌い」
「乃梨子ちゃん?」
「私は、祐巳のことが好き。大好き。だから、祐巳に好きだって言われる祥子さまが嫌い。
それに、私は去年までの祐巳を知らない。そんな、私の知らない祐巳と、去年姉妹として過ごした祥子さまが嫌い」
「乃梨子ちゃん……」
「だから、祐巳は私のものなんだって…そう誇示したかったんだと思う。ごめん、子どもで……」

祐巳は、乃梨子が祥子と喧嘩するのは、ただ祥子をからかっているだけなんだと思っていた。
だから、乃梨子がそんなふうに考えているとは、思ってもみなかった。

「乃梨子ちゃん」

祐巳は、乃梨子をそっと抱き寄せた。

「そっか。そんなふうに思ってたんだ」
「ごめん……」
「ううん。いいよ。ちょっと、嬉しかったから。乃梨子ちゃんが、本当に私のことを好きでいてくれてるんだなって思って」
「あ、当たり前だよ。私にとって祐巳は、世界で一番大切な人なんだから」
「ありがとう。私も、乃梨子ちゃんのこと好きだよ。でもね、お姉さまも好きなの。勿論、乃梨子ちゃんに対する好きとは違うよ。
だけど、大切な人なんだよ。だから、あんまり喧嘩しないで?ね?」
「う、うん……」

祐巳にそう言われて、乃梨子は渋々首を縦に振った。
乃梨子だって、なにも祐巳を困らせたいわけではないのだ。

「うん、いい子」

祐巳は嬉しそうに乃梨子の頭を撫でた。

「も、もう、子ども扱いしないでよ」
「え〜、嬉しいくせに」
「べ、別に嬉しくなんてないもんっ」
「でも、どもってるよ?」
「うっ……」

言葉に詰まった乃梨子は、開き直ることにした。

「そうよ、嬉しいに決まってるでしょ。私は、祐巳のことが好きなんだからっ」

そんな乃梨子を、祐巳はギュッと抱きしめる。

「わっ!」
「私も、乃梨子ちゃんがだ〜い好きっ」

夕焼け色した帰り道。
二人はそうやってイチャイチャしながら歩いた。

 

 

―――――――――――――――

あとがき

え〜っと、何だこれ?
祐巳を取り合う乃梨子と祥子さまを書くはずだったのですが……。
めちゃくちゃ中途半端な話になってしまいました……。
もう、これは逃げるしかない。(コラッ!)

では、またの機会がありますことをお祈り申し上げます。


20060731 御神楽 華音


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