高校に入学して、祐巳と出逢った。
その人は、けして美人というわけではなかった。
しかし、あの陽だまりのような笑顔に、私は惹かれていった。
私が祐巳を愛するようになるまで、それ程時間は掛からなかった。

同性を好きになってしまったことに、私は少なからず動揺した。
けれど、私は自分の気持ちを抑えることは出来なかった。

「好きです」

そう告白した時の祐巳の反応は、少し驚いた顔をした後、頬をほんのり紅く染め、

「私もっ」

と私を抱きしめてくれた。
その時の祐巳の笑顔は、初めて見るものだった。
それは、特別な人にしか向けられないもので、私はその特別に成れたのだと思えて、嬉しかった。

 

そして、それから7年の時が流れた……

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高校を卒業すると、私は祐巳と同じ大学、同じ学部に通った。
同じ学部でも、学年が違うから、大学ではなかなか会えなかった。
けど、同じアパートで、同じ部屋を借りていたから、寂しくはなかった。

その4年間も色々あったのだが、それを話すとそれだけで一冊の本が出来そうなので割愛させてもらう。

大学を卒業したら、祐巳は保育士に、私は小学校の教師になった。

今、祐巳は2年目ということで、今年は自分が主となって保育をしているらしい。
補助だった去年と違って、責任が大きくて大変だと嘆いている。
尤も、毎日楽しそうにはしているが。

私は、一年目だがもう担任を任された。
教科制の中学、高校と違って、小学校は殆んどの教科を担任が受け持つので大変だ。
先輩の先生に聞きながら、授業の準備に追われる毎日。
8時、9時まで学校に残っているなんてのが当たり前。
帰るともうクタクタだった。
それでも、帰ると祐巳がご飯を用意してくれていた。
自分も仕事で疲れているだろうに。
祐巳ひとりにやらせて、悪いと思いながらも、そんな祐巳の優しさに癒されている自分がいる。

「私は2年目だから、少しは慣れたしね。乃梨子ちゃんの方が大変でしょ?毎日遅くまで、次の日の準備とかしてて」

毎日世話になりっぱなしで、申し訳なく思う私に、祐巳はそう言って笑った。
祐巳が去年、仕事に慣れなくて苦労していても、私は自分の就職のことで手一杯だったというに。
結局、私はいつだって祐巳に甘えている。
けれど、いつまでも祐巳に甘えているわけにはいかない。
私は、この先もずっと、祐巳と一緒に、肩を並べて歩きたいのだから。

 

 

 

「ありがとうございました」

終始営業スマイルを絶やさなかった定員の声を背に、私はその店を出た。

(買っちゃったよ……)

私の心臓は、店に入る前より、それを買う瞬間より、バクバクと激しい音を立てていた。

この半年間、漸く自分なりに仕事のペースが分かりかけてきた。
そして、今日は大切な日。
だから、自分なりのひとつの区切りをつけようと思った。

(頑張れ、私……。頑張れ……)

そうやって、自分を励ましながら、私は岐路についた。

 

 

 

「おかえり、乃梨子ちゃんっ」
「ただいま、祐巳」

いつもの風景。
帰ってくると、そこにはいつも祐巳の笑顔がある。
今までも、そして、きっとこれからも。

「ねぇ、乃梨子ちゃん。今日、何の日か覚えてる?」

まだ靴すら脱ぎきっていない私に、そんな質問をする。

「覚えてないわけないよ。今日は、私と祐巳が付き合いだして、丁度7年目」
「うんっ。やっぱり、覚えててくれた」
「当たり前でしょ。でも、考えてみると、7年って長いね」
「そうだね。それだけ付き合ってると、飽きたりしない?」

悪戯っぽい笑みを浮かべて、私を覗き込む祐巳。
この顔は、答えが分かってて聞いている。
だから、私も少し意地悪をする。

「そうだねぇ。実は同僚の先生にひとり、かっこいい人がいるんだ」
「あ〜、それを言うなら、私だって……」
「祐巳の保育所、女性ばっかりでしょ?」

現在、保育士にも男性は増えてきているらしいが、祐巳の保育所はまだまだ女性しかいないらしい。
だからといって、安心というわけではないが……。
祐巳可愛いし。

「そうだけど。でも、新任の先生にね、私を頼ってくれる子がいるんだけど、結構可愛いんだよ。色々相談も受けてるし」
「むっ……」

それは初耳だ。
まぁ、祐巳くらい可愛かったら、男女上下関係なくもてるだろうけど……。

「あっ、乃梨子ちゃん、今ちょっと妬いた?」

そう言う祐巳の顔はニヤニヤしていて、ちょっぴり腹が立つが、図星だった。
けど、正直に認めるのも癪である。

「別に、そんなことないよ」
「またまた〜。知ってるんだからね、乃梨子ちゃんがヤキモチ妬きだってこと」
「そんなことないって、それより祐巳?」
「ん、何?」
「焦げ臭くない?」
「えっ?あっ!」

祐巳はそれを聞くやいなや、

「魚がっ」

と言ってキッチンへ飛んでいった。

「今日は魚の炭焼きー?」
「うるさいっ」

さっきの仕返しに、キッチンへ向かって皮肉たっぷりに言ってやった。
就職しても、祐巳のどこか抜けているところは直っていない。
尤も、そんなところも好きなのだから、気にしていない。
私は祐巳を追ってキッチンへ向かった。
すると、そこには驚くべき光景が……。

「祐巳、何これ?」

テーブル一杯に並べられた料理の数々。
何のパーティー…って記念日だった。
いや、しかしこれは幾らなんでも多すぎじゃ……。

「へへ、凄いでしょ。頑張ったんだよ」
「いや、祐巳、いつの間にこんなに……」

今日は平日で、祐巳も仕事の筈だ。
こんなに沢山の料理を作っている暇など無い筈だ。

「あ、私今日休み」
「え、そうなの?」

保育士というのは、週休2日制ではあるが、保育所自体は土曜日もやっている。
従って、日曜以外の休みが平日になることはあったが……。

「まぁ、土曜は出勤だけどね」
「だろうね」

平日が休みだと、イコール土曜は仕事ということだ。
まぁ、私も土曜は授業の準備や研究で学校に行くこともあるけど……。

「さ、もう出来るから、乃梨子ちゃん、着替えておいでよ。それとも、先にお風呂にする?」
「ううん、先に食べる。折角の祐巳の料理が冷めないうちに」

私がそう言うと、祐巳ははにかんだように笑った。
その笑顔が可愛かったので、私は思わず抱きしめた。

「もう、乃梨子ちゃん。こんなことしてると、結局料理冷めちゃうよ?」
「むぅ、それは困る」

名残惜しかったが、私は祐巳を放して、着替えることにした。

 

 

私は、部屋に戻って手早く着替えを済ませた。
そして、鞄から、今日買った物を取り出した。
それを手の平に乗せて眺めていると、また心臓がバクバクいってくる。

(大丈夫。祐巳はちゃんと、私のことを愛してくれてる)

だから、大丈夫だ。
私はそれをそっとポケットに忍ばせた。

 

 

「さぁ、乃梨子ちゃん、座って座って」

そこは、もうすっかり料理をテーブルに並び終え、準備万端という感じだった。
私は促されるままに座った。

「安物だけど、まぁ、雰囲気だけでも」

そう言って私の前にグラスを置くと、安物と言ったわりには、見た目高そうなワインを注いでくれた。
その次に、私が祐巳のグラスにワインを注ぐ。

「それじゃあ、乾杯」
「乾杯」

軽くグラスを傾けると、部屋に「チンッ」という音が響いた。

「ワインって、初めて飲むけど、あんまり美味しくないね」
「まぁ、ワインは本来、何年か寝かせておく物だからね」
「ふ〜ん、めんどくさいんだ」

つまらなそうにグラスの中のワインをゆらゆら揺らしながら、祐巳は溜め息を吐いた。

その後、祐巳の手料理に手を伸ばす。
流石に、私より作っている回数が多い分、私が作るより数段美味しかった。

 

「ご馳走様でした」

二人ほぼ同時に食べ終わり、一緒に手を合わせる。
これは、もう私も祐巳も、仕事柄の習慣になってしまった。

「自分で言うのもあれだけど、結構美味しかったね」
「結構どころか、凄く美味しかったよ」
「へへ、ありがとう」

(でも、よく食べきれたよな……。いや、そんなことより……)

再び、心臓が高鳴りだす。
これからが、今日の本番だ。
私は、ポケットの中から、小さな小箱を取り出す。
緊張からか、手の平はじっとりと汗で濡れていた。

「あ、あの、さ……」
「ん、何?」
「今日は、その、付き合って7年目の、記念日でしょ。だから、プレゼントがあるの」
「え、別にいいのに、そんなの」

口ではそう言いつつも、やはり嬉しいのか、若干頬が緩んでいる。

「これ、受け取って、もらえるかな?」

手の震えをなんとか抑えて、私はそれを差し出した。

「開けていい?」
「う、うん……」

私が頷くと、祐巳はそのラッピングを丁寧に解いた。
そして、その箱を開けると……、

「乃梨子ちゃん、これって……」

そこにあったのはシルバーのリング。

「祐巳。私達は、女同士だから、結婚も出来ないし、子どもも作れない。それでも、私は祐巳を愛してる」

結婚は出来ない。
けれど、祐巳と一緒にいたい。
だから、続けて言った。
付き合って7年目という今日の日を、新しい記念日にするために。

「結婚は出来ないけど、それは法律上のこと。だから、あえて言うよ」

私は、大きく息を吸い込むと、言った。

「結婚して下さい。必ず、あなたを幸せにします」
「………………」

祐巳はその言葉をかみ締める様に、指輪を大事そうに抱きかかえた。
そして、その瞳から、ポロポロと涙が溢れ出た。
それでも、力強く、

「はいっ」

そう頷いてくれた。
私が祐巳の隣に移動すると、直ぐに祐巳が抱きついてきた。
私は祐巳の背中に、そっと手を回す。

「ずっと、一緒にいようね」
「うんっ」

どちらからともなく、唇を重ねた。

「ねぇ、乃梨子ちゃん、これ……」

唇を離すと、祐巳が先程の指輪を渡してきた。
私は、祐巳の言わんとしている事が分かったので、それを受け取った。

「愛してるよ、祐巳」
「うん。私も、乃梨子ちゃんを誰よりも愛してる」

差し出された左薬指に、指輪をはめた。
祐巳は、それを愛おしそうに撫でた。

「大切にするね。ありがとう……」
「うん。私、祐巳のこと、絶対に幸せにするからね」
「違うよ、乃梨子ちゃん」
「え?」
「幸せになろう、だよ」

そう言って、祐巳は私の鼻先をちょんっとつついた。

「そうだね。幸せになろうね、祐巳」
「うんっ」

そして、私達は再び唇を重ねた。

 

今日は、付き合ってから7年目の記念日。

また、明日からいつもの毎日が始まる。

けれど、同じじゃない。

新しい、二人の生活がスタートするんだ。

 

「ずっと、一緒にいようね。祐巳」

 

 

 

―――――――――――――――

あとがき

こんちには、御神楽 華音です。
トトさま、キリ番19000獲得おめでとうございます。
リクエスト、祐巳×乃梨子のラブな話、書かせて頂きました。
こんなヘタクソにリクエストして頂き、ありがとうございます。

祐巳×乃梨子のラブ。
こんな感じで如何でしょうか?
いや、こんな下手な作品しか書けずに申し訳ない……。
こんな作品でも、少しでも楽しんで頂けたのなら、それは私にとって最上級の幸せで御座います。

それでは、リクエスト本当にありがとうございました。
これからも、お時間があれば、またサイトの方覗いてやって下さいまし。

では、またの機会がありますことを、心よりお祈り申し上げます。

ありがとうございました。


20060807 御神楽 華音


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