「ただいま〜」
学校から帰ると、ランドセルを放り投げて、居間へ行く。
テーブルの上にある煎餅を一枚口に入れる。
そのまま自分の部屋に行き、制服から私服に着替える。
「遊びに行ってくる」
台所にいるであろう母さんに一声掛け、そのまま外へ――、
クイクイッ
と、靴を履いている途中、誰かに服を引っ張られた。
誰か、なんて、妹の『のどか』しかいない。
振り返ると、目の前にのどかの顔があった。
こいつは、妹ののどか。
今年、5歳になる。
のどかは幼稚園にも保育園にも通っていない。
その所為か、こいつには友達がいない。
だから、俺が学校が終わると、いつも俺の後をくっついて歩く。
別に何をするわけでもなく、ただ、俺の後をついて歩く。
正直鬱陶しいが、前に「ついて来るな」と言ったら、母さんにこっぴどく叱られた。
だから、今日も俺はのどかを連れて外に出た。
「よう、。相変わらず妹連れだな」
のどかを連れて、近所の公園へ行くと、いつものように友達にからかわれた。
「うるせー」
なので、俺もいつものように言い返す。
「仲良いよな、お前ら」
「別にそんなんじゃない」
そんな話から始まり、適当に雑談をしていると、いつものメンバーが集まる。
「ドッチボールしようぜ」
ボールを持ってきた奴がそう提案する。
といっても、いつもやっているのだが……。
「のどか、やるか?」
分かりきったことを、一応聞いてみる。
のどかはただ黙って首を振った。
のどかはいつもの様に、砂場で砂遊びを始めた。
のどかは遊びに混ざらない。
いつも砂場で一人で遊ぶ。
どうせ一人で遊ぶのなら、俺にくっついて来る必要はないのではないかと、いつも思う。
「お前の妹って、変わってるよな」
「あぁ……」
俺はぶっきら棒に頷いた。
友達と遊び始めると、のどかのことは頭から離れがちになる。
それでも、時折、砂場で遊びながら、こっちを見ていることに、俺は気付いていた。
しかし、のどかが望んでいることなど分かるはずもなく、俺はそんなのどかを無視して遊んでいた。
「俺、昨日スゲーもん見つけたで」
ドッチボールの三試合目が終わった頃、仲間の一人が言った。
そいつが言うには、昨日、山の奥で、何か動物の骨らしき物を見つけたらしい。
仲間たちは口々に「スゲー」と囃し立てた。
そして、まだ他にも落ちているかもしれないから、今からみんなで行ってみよう、ということになった。
「おーい、のどかっ」
移動するので、のどかを呼ぶ。
「おい、あいつは連れてくるなよ」
仲間の一人が言った。
「どうして?」
「あいつは女だからだ。骨なんか見たら泣くかもしれないだろ?」
そいつはそう言ったけど、俺はそうは思わなかった。
のどかは、意外に泣かない。
以前、誤ってのどかの足の上に、懐中電灯を落としてしまったことがある。
その時、のどかは素足で、相当痛かったに違いない。
けれど、のどかは泣かなかった。
他にも、父さんがホラー好きなので、よくホラー映画を借りてくる。
俺は恐くて見れないのだが、のどかは平気で見ている。
「面白いか?」と聞いたところ、少し首を捻った後に頷いた。
だから、のどかはちょっとやそっとでは泣かない。
そう説明したが、そいつは「駄目」の一点張りだった。
仕舞いには、「お前もおいていく」と言われてしまったので、仕方なく、のどかを置いて行くことにした。
「ここで遊んで待ってろな」
そう言うとのどかはコクリと頷いた。
のどかを一人残して行くことに、多少の罪悪感を覚えたが、のどかなら大丈夫だろと思い、俺はみんなと山に向かった。
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…
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山で遊んでいるうちに、すっかり遅くなり、辺りは少し薄暗くなっていた。
結局、骨は見つからなかった。
今になってみれば、本当にあいつが骨を見つけたかどうかも怪しい。
けれど、それなりに楽しかった。
ただ、これだけ遅くなると、母さんに叱られるかもしれない……。
前に、真っ暗になるまで遊んでて、暫く家に入れてもらえなかったことがある。
今日はその時よりは早いが、遅いことに変わりはない。
俺は、家までの道を急いだ。
「ただいま〜」
玄関を開けると、そこには母さんが恐い顔で立っていた。
「あんた、今何時だと思ってるの。またこんなに暗くなるまで遊んで。
危ないでしょ?しかも、今日はのどかを連れてるんだよ。こんな遅くまで妹を連れ歩くんじゃないよ」
「え?」
俺は首を傾げた
のどか……?
「あっ!」
しまった、置きっぱなしだ。
「あれ、あんた、のどかは?」
俺はそれには答えず、急いで駆け出した。
後ろから母さんの怒鳴り声が聞こえたけど、今は無視だ。
のどかのことをすっかり忘れていた。
いや、時々思い出したけど、もう帰ったものだと、勝手に思い込んでいた。
そう自分の都合のいいように思っていた。
けれど、俺は知っている筈だ。
あいつが、俺の言ったことを守ることを……。
「はぁ……、はぁ……」
いくら公園が近いといっても、子どもの体力など、高がしれてる。
ましてや、家から全力疾走していたのだ。
俺は疲れて手を膝に息をした。
「はぁ……、はぁ……。くそっ」
それでも、俺は再び走り出した。
公園は、もうすぐそこだ。
「のどかっ」
公園に入り、のどかの名前を呼ぶ。
もしかしたら、流石にのどかも泣いているかもしれない。
そんな考えが頭を過ぎった。
「のどか……?」
果たして、のどかは砂場にいた。
手を砂に塗れさせ、砂場で遊んでいた。
そして、俺の姿を見つけると、駆け寄ってきて、俺の手を取った。
俺を見上げるのどかの瞳は……特にいつもと変わらないようだった。
泣いているかもしれないと、心配した俺がバカみたいだ。
「……………」
のどかは、ただ黙って俺を見上げている。
本当に、いつも通り。
だから、俺もいつものように、のどかの手を振り払った。
「砂がつく。手洗ってこい」
俺がそう言うと、のどかは素直に水道まで駆けて行き、手を洗った。
濡れた手を服で拭き、またこちらへ戻ってくる。
そして、再び俺の手を握った。
「帰るぞ?」
そう言うと、のどかは黙って頷いた。
暗くなった道を、二人で手を繋いで歩き出した。
こいつは、妹ののどか。
今年、5歳になる。
のどかは幼稚園にも保育園にも通っていない。
その所為か、こいつには友達がいない。
だから、俺が学校が終わると、いつも俺の後をくっついて歩く。
だから、俺の言うことはちゃんと聞く。
鬱陶しくなることはしょっちゅうだ。
邪険に扱うこともある。
それでも、こいつは俺の後をついて来る。
こいつは、妹ののどか。
名前の通り、のんきな奴である――。
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あとがき
こんにちは、御神楽 華音です。
初のオリジナル短編。
如何でしたでしょうか?
結局、私は何が書きたかったのでしょうか?
『俺』が、ずっと淡々と語っているだけのような……
のどかは一度もしゃべってませんし……。
精進したいと思います……。
さて、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
楽しんで頂けたらいいなぁ、と思います。
もし楽しんで頂けたのなら、私にとってそれは最上級の幸せでございます。
よろしければ感想等いただけたら、また喜びます。
では、またの機会がありますことを。
20060319 御神楽 華音