「おまえさぁ、普通にメロン頼めよ。何だよ、蜂蜜キュウリって」
「いいでしょ、別に。そういうアンタこそ何、ピリ辛バナナって。バナナ辛くしてどうするのよ?」
「俺はな、この退屈な日常に刺激を求めているんだよ。これは所謂、大人の味だ」
「何が大人よ。コーヒーに砂糖4つも入れるくせに」
「それを言うならお前はいつも寿司はサビ抜きだろ」
(どっちもどっちだよ)
三上俊一(みかみしゅんいち)は、呆れながら、たった今買ったクレープを一口かじった。
チョコレートクリームの甘さが、口の中に広がる。
因みに、友人の下川隆之(しもかわたかゆき)はピリ辛バナナ。
隆之の彼女である、鷲野梨花(わしのりんか)は蜂蜜キュウリ。
二人はそのことで討論を始め、そこからまた話が別の方向へ行ってしまっている。
まったく、毎回毎回よくケンカのネタが出来上がるものだ。
しかも、ケンカをしながらも手の中のクレープはちゃんと減っているのだから、器用なものだ。
「もう、隆之なんか知らない。こんな奴放っておいて、行こう、俊一君」
頬をぷっくり膨らませて、梨花は空いている手を俊一の腕に絡めた。
俊一はうんざりしたような顔をしながらも、されるがままにされていた。
「俊一は俺のダチだ。気安く触るな」
隆之は残りのクレープを口に放り込んで、俊一と梨花の間に入り、引き離そうとした。
「隆之、お前も張り合うなよ」
溜め息が出た。
折角の春休みだというに、こんな所で何をしているのだろうか。
街中でギャーギャー騒いでいるため、周りの視線が痛い。
「大体、何で今日は俺まで呼ばれたんだ。二人っきりでデートして、イチャイチャしてろよ」
俊一はそう左手にくっついている二人を振りほどいて言った。
「こんな奴と二人きりなんて、冗談じゃねぇよ」
「私だって嫌よ」
そう言って二人は睨み合った。
「お前ら、何で付き合ってんの?」
もう呆れるしかなかった。
ブー ブー
ふいに、ポケットの中の携帯が震えた。
俊一はポケットからそれを引っ張り出した。
「げっ」
ディスプレイには『母』という一文字。
恐らく、いや、絶対にロクな用件じゃない。
しかし、出ないとそれはそれで、後々に報復が待っている。
例えば、仕送りが減ったり減ったり減ったり。
俊一は渋々ながらも、通話のボタンを押した。
「はい」
「何処をほっつき歩いてんだ、このバカ」
いきなりな罵声だった。
「いや、友達と商店街で遊んでるけど」
「直に帰って来い。さもなければ、アパートの契約を解く」
母親は一方的にそう言うと、さっさと電話を切ってしまった。
一方、俊一は、あまりの理不尽さに、暫し呆然とした。
「俊一、誰だったんだ?」
「あぁ、母親だった。何か直帰れって言われた」
「えっ、お袋さん来てるのか?」
「帰れって言ってるんだから、多分いるだろ」
「へぇ。見に行っていいか?」
「はっ?」
(見にって、ウチの母親はパンダか何かか。そもそも、あの母親に会う?)
「死ぬぞ」
「どんな母親だよ?」
隆之は苦笑したが、別に冗談で言ったわけではなかった。
実際、あの母親で、よく今日まで生きてこれたものだと思う。
「何者だよ、お前のお袋」
まるで冗談を言うように――、いや、本人は冗談なのだろう。
しかし、俊一は真面目に答えた。
「あれは既に、人間じゃない」
それでも隆之は真に受けず、梨花までも笑っていた。
結局、何だかんだで、二人の仲はいいらしい。
(俺、ホントに何しに来たんだろう……)
俊一は溜め息をひとつ吐き、一人家路についた。