「ん……」

母親が髪を撫で上げていた方の女の子が、小さく呻き、うっすらと目を開けた。
そして、その女の子と目が合った。
数秒間の沈黙の後、女の子はガバッと起き上がり、正座した。

「三上俊一お兄様ですね?」
「は、はい……?」

(お兄様?)

「私、水原 瑞音(みずはら みずね)と申します。ふつつか者ではありますが、どうぞ宜しくお願いいたします」

そのままペコリとお辞儀する。

「は、はぁ……。ご丁寧にどうも……」

(お見合い?つーか、何歳?)

俊一が呆気に取られていると、母親が笑いを噛み殺していた。

「なかなか礼儀正しいだろ?私も最初は面食らったよ」

母親は愉快そうに瑞音と名乗った女の子の頭をポンポンと撫でた。
そんな母親の笑い声が煩かったのか、寝ていたもう一人の女の子も目を覚ました。
しかし、完全に目は覚めていないようで、ボンヤリ虚空を見つめていた。

「この子は珠奈(じゅな)ちゃん。大人しくて可愛い子さ」

そう言って、瑞音と同じように珠奈の頭もポンポンと撫でた。

「さぁ、瑞音ちゃん、珠奈ちゃん、おいで。髪を結んであげよう」

母親はクシを器用に使い、あっという間に二人の髪を結んでしまった。
瑞音の方は、髪を前に垂らしたおさげ。
一方の珠奈はポニーテールだ。
因みに、結んでない状態では、二人とも背中にかかるほど髪は長い。

「明日からは、お前が結んでやるんだよ」

そう俊一は、母親にクシを渡された。

「そんなの出来るわけねぇだろ。今までやったことないのに」
「適当でいい。結ぶだけでな。誰だって最初は下手くそさ。
まぁ、彼女の髪でも使って練習しな。あぁ、いないか、そんな相手。童貞だしな」
「子どもの前で変なこと言うな」

(恥じらいとか無いのか。いや、無いな。母親だし……)

「あぁ、そうそう。春休みが終われば、瑞音ちゃんは小学校。珠奈ちゃんは保育園に通うことになってる。
優や鉄太。芽衣や沙佑と同じ所だ。また真由子や早希には世話になるから、お前からも宜しく伝えてくれ」
「あぁ、分かった」
「それから、仕送りは増やしてやるから、その中でちゃんとやりくりしろ。余計な物は買うんじゃないよ。
いざとなったらお前は絶食でもしな。それで二人にはちゃんと食べさせてあげるんだよ」
「あ〜、はいはい」

凄い言いぐさだとは思ったが、まぁ母親だしと思えるところは、流石親子と言うべきか……。

「よし、じゃあ、私は帰るからな。後は頼むぞ」
「え、もう?」
「あぁ、仕事があるからな」
「あまり無理するなよ」

俊一がそう言うと、母親は暫く俊一を見た後……鼻で笑った。

「気色悪いこと言うな。吐き気がする」

これは、恐らく母親なりの照れ隠しなのだろうと思った。
そうでなければ、泣きたくなる……。

「じゃあ、瑞音ちゃん、珠奈ちゃん。元気でな」

そう言って、順番に二人の頭を撫でていく。

「こいつに変なこと、されそうになったら、直ぐに私か児童相談所に連絡するんだよ」
「こらこら、そこの母親」

俊一たちのこんなやり取りを、瑞音はただ苦笑し、珠奈は無表情で見つめていた。

(まだ高校生なのに、大丈夫なのか?)

当然、不安はある。
だが、あの母親にこの息子ありとでも言おうか。

(まぁ、なんとかなるか。いや、しなきゃいけないか)

短絡的…と言うより、かなり前向き思考のようだ。
こうして、俊一、瑞音、珠奈、三人の共同生活……、いや、俊一の子育て生活が始まる。
高校生の身で……。

 

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