二日目の朝。
俊一の最初の仕事は、二人の髪を結ぶことだった。
しかし、今までそんなことをしたことがないのに、上手く結べる筈もない。
瑞音のおさげは左右の大きさが違い、珠奈のポニーテールはクシャクシャになってしまった。
二、三回やり直して、なんとか多少まともな物にすることが出来た。
(髪結ぶだけで疲れた)
それから、パンと目玉焼きというメニューで、簡単に朝食を済ませた。
「え〜っと、今日は何買えばいいんだっけ?」
必要な物を頭に思い浮かべていくが、直ぐに忘れそうなので、メモすることにした。
俊一が書いたメモには、茶碗、箸、汁碗、小皿、洗面台に置く台、遊ぶ物、と記されていた。
元々、母親が結構揃えてくれていたので、そこまでの量にならなくて済みそうだ。
(これなら一人で持てるな)
多いようなら隆之にでも荷物持ちを頼もうかと思っていたが、その必要はなさそうだ。
「じゃあ、出るぞ」
俊一が二人を呼ぶと、瑞音が直ぐに飛んできた。
そして、昨日は反応が無かった珠奈も、トコトコと歩いてきて、俊一の手を握った。
昨日一日で、少しは懐いてくれたようで、それが何だか嬉しかった。
俊一は部屋の鍵を掛けてから、瑞音の手も握った。
「あっ……」
すると、心成しか瑞音の頬が赤くなった気がした。
昨日は、そんなことはないと言っていたが、やはり恥ずかしいのだろうか?
それでも、心成しか嬉しそうにも見える。
結局、俊一は手をそのままで歩き出した。
バスに乗って、約10分。
三人はデパートに到着した。
俊一はまず、茶碗等の食器類、洗面台等の日用品を買い揃えた。
次に、メモには書かなかったが、帽子を買うことにした。
外に出て思った。
今日はあまり暑くないが、これから暑くなってくると、帽子も必要となってくるだろう。
昨日は被ってなかったが、優も鉄太も夏になれば被るし、芽衣と沙佑も夏以外でもお揃いの帽子を被っていることは多々ある。
勿論、瑞音は最初は遠慮していたが、強引に押し切った。
結局、瑞音は白いハット帽子。
珠奈は赤いリボンの麦わら帽子を選んだ。
二人とも、買った帽子を早速被って、お互いに見せ合いっこをしている。
「珠奈ちゃん、とってもかわいいです」
「おねぇちゃんも……」
帽子を被った姿を、お互いに褒めあう二人が、何だか微笑ましかった。
「お兄さま、ありがとうございます」
「ありがとう……」
満面の笑みの瑞音と、僅かな微笑みを浮かべる珠奈。
違いはあるが、二人とも喜んでくれていることは、俊一には分かっていた。
だから、それで充分だった。
俊一は、次に二人をおもちゃ売り場へ連れて行った。
二人と一緒に一通り見て回ったが、色々な物がありすぎる。
自分が子どもの頃には無かった物ばかりだ。
そして、高い……。
しかし、一度買ってやると言った手前、今更無理とは言えない。
「さぁ、何か欲しいものはあったか?」
俊一はそう聞くが、やはり瑞音は遠慮がちだ。
「もうボウシをかっていただいたので、これいじょうは……」
瑞音はそう言うが、それで俊一も引いたりはしない。
「じゃあ、俺が勝手に決めるぞ」
俊一は昨日言ったように、もう自分が決めることにした。
周りに視線を彷徨わせると、目に付いたクマのヌイグルミを手に取った。
瑞音の身長の三分の二くらいはある大きな物だ。
「ほら、これなんてどうだ?かわいいぞ」
ずいっと瑞音の前にヌイグルミを差し出した。
瑞音は暫くそれを見つめた後、ポソリと、
「いいんですか……?」
と呟いた。
「あぁ、勿論だ」
俊一がそう言うと、瑞音はそっとヌイグルミを手に取った。
そして、愛おしそうにそれをギュッと抱きしめた。
「ありがとうございます。たいせつにします」
その瑞音の笑顔がとても可愛くて、俊一は瑞音の頭をクシャッと撫でた。
「珠奈はどれにする?」
見て回っている間、あまり周りに見向きもしなかったが、何に興味があるのだろうか?
そう思っていると、珠奈は俊一が選んだヌイグルミの横にあったヒツジのヌイグルミを指差した。
それもクマのヌイグルミと同じくらい大きい。
「よし、これだな」
俊一はそれを珠奈に渡してやった。
珠奈はそれを抱えると、ジッとそれを見やった。
「珠奈。ヒツジが好きなのか?」
俊一はそう聞いてみたが、珠奈は首を傾げただけで、否定も肯定もしなかった。
俊一はそんな珠奈の様子にただ苦笑した。
会計を済ませて、紙袋に入れられたヌイグルミを渡してやると、二人とも大事そうにそれを抱きしめた。
「大丈夫か?持てる?」
何分大きいので、両手で抱えていないといけない。
顔が半分も隠れているので、前がちゃんと見えているのか怪しい。
それでも、
「大丈夫です」
と瑞音が答え、珠奈もそれに頷く。
やはり、自分の物は自分で持ちたいと思うものなのだろう。
子どもの頃の自分を思い出してみると、やはりそうだった記憶がある。
買ってもらったばかりのおもちゃを自分で持つことによって、欲しかった物が自分の物になった実感が沸いた。
それなら、二人が持ちたいと言うのも納得できるし、そうさせてやりたいと思う。
自分はただ、前方が不確かになっている二人に注意して、何かにぶつかったりしないように気を配ればいい。
俊一は、小さな体で一生懸命紙袋を持つ二人の微笑ましさに、ただ目を細めた。