「え?」
俊一は、一瞬我が耳を疑った。
しかし、いつか言われるとは思っていた。
瑞音、珠奈の為にお風呂を沸かし、湯が溜まったことを伝えると、珠奈に、
「いっしょにはいろ?」
俊一の服の裾を掴んで、ジーっと自分を見つめている2つの瞳。
それを、前にすると、何だか「No」とは言い難い……。
「珠奈ちゃん、2人で入りましょう」
瑞音がそう言っても、珠奈は首を振るばかり。
「でも、ウチのお風呂は3人で入るには狭いぞ」
「いい」
即答だった。
珠奈にしては珍しい。
俊一と瑞音以外にはまだまだ打解けない珠奈だが、こうしてちゃんと甘えてくれるのは嬉しく思う。
(かと言って、一緒にお風呂か……)
これが仮に自分の娘や妹であれば……。
(妹……?)
そこれ俊一は気付いた。
戸籍上は従兄妹ということだが、2人は俊一にとって妹も同然ではないか。
2人だって、自分のことを「お兄さま」(これは少し恥ずかしいけど)「お兄ちゃん」と、兄として慕ってくれているではないか。
(じゃあ、問題ないよな)
寧ろ、何故今まで一緒に入ってやらなかったのだろうとすら思えてくる。
「よし、じゃあ一緒に入るか?」
「え?」
それを聞いた瑞音が目を丸くする。
「あ、瑞音はイヤか?」
俊一がそう聞くと、瑞音は勢い良く首を振った。
「イヤではありません。嬉しいです」
力強くそう言った瑞音の頬は、少しだけ赤かった。
(やっぱり恥ずかしいのかな?)
そう思ったが、瑞音や珠奈くらいの年齢の子どもの羞恥心とはどの程度の物なのだろうか?
自分が保育園に通っていた時は、たしかトイレは男の子女の子別れていなかったし、
身体測定があれば、男の子も女の子も一緒にパンツ一丁で測定する。
(けど本人も嬉しいって言ってるし)
考えていたって仕方のないことだろう。
俊一はそう思うことにした。
「さ、頭洗うから座って」
俊一は、まず珠奈を自分の前に座らせた。
瑞音には先に湯に浸かってもらう。
最初にシャワーで髪を濡らす。
因みに、髪についた汚れはお湯で落ちる。
シャンプーでは頭皮の汚れを落とす。
隆之から教えてもらった豆知識だ。
まぁ隆之の言うことだからどこまで本当か知らないが……。
俊一はシャンプーを手につけると、爪を立てないよう、力を入れすぎないよう、指先でマッサージをするように珠奈の頭を洗う。
いつも髪を結ぶ時に思うのだが、2人の髪は柔らかくツヤがあり、本当にいい髪をしていると思う。
「じゃあ、目瞑って」
珠奈がギューっと目を瞑ったのを確認すると、俊一はシャワーで珠奈の髪のアワを落としていく。
耳に裏などにアワが残ってしまわないように、丁寧に。
(次は体か。まぁ、これは全部やってあげなくても大丈夫だろ)
俊一はスポンジに石鹸をつけると、それを珠奈に手渡した。
「後で背中とかは洗ってあげるよ」
珠奈はコクリと頷き、スポンジで体を洗い始めた。
俊一は、珠奈が体を洗っている間に、先に自分の髪を洗ってしまうことにした。
「洗った」
珠奈はわりと直ぐに体を洗うのを終え、スポンジを俊一に差し出した。
「お、ちょっと待ってな」
俊一は、自分の髪のアワを手早く落とし、珠奈からスポンジを受け取った。
そして、珠奈の背中や耳の裏、指先、足の裏や指の間など、子どもの手では届き難いところを、丁寧に洗ってやった。
「よし、これでピカピカだ。じゃあ、次は瑞音と交代な。お風呂にはしっかり肩まで浸かれな。瑞音、お待たせ」
「いえ、わたしはじぶんでやりますから、お兄さまこそ、おゆにつかってください」
瑞音のそんな言葉に、俊一はやれやれと苦笑した。
どうしたら瑞音は遠慮しなく甘えてくれるのだろうか。
そもそも気を使いすぎだ。
俊一がそんなことを思っていると、珠奈が瑞音の手を引いて、湯船から引っ張り上げた。
「じゅ、珠奈ちゃん?」
戸惑う瑞音をよそに、珠奈は瑞音をグイグイと引っ張り、イスに座らせてしまった。
「珠奈ちゃん……」
そんな珠奈を見て、俊一はへぇ、と感心した。
珠奈はなかなか頑固なところがあると思っていたが、こんな一面も持っているようだ。
一見、自分の殻に閉じ篭っているようで、ちゃんと優しさを持っているのだ。
「ほら、ジッとしてろよ」
折角珠奈が座らせてくれたのだ。
また何か遠慮する前に、さっさと洗ってしまおう。
子ども用のアワジャンプーを手に出し、洗いにかかる。
瑞音の髪も柔らかく、髪質が似ていると思った。
(長さも同じくらいだし、やっぱり姉妹だなぁ)
「………………………」
シャワーでアワを洗い流すまで、瑞音はずっと俯いたまま、ギュッと目を瞑っていた。
続いて体だが、瑞音にもまずは自分で洗ってもらうことにし、その間自分の体も洗ってしまうことにした。
タオルに石鹸をつけていると、珠奈が湯船からあがった。
「お、出るか?」
しかし、珠奈は首を振り、俊一のタオルを指差した。
「お兄ちゃんのせなかあらう」
「え、俺の?」
珠奈はコクンと頷き、戸惑う俊一からタオルを取ると、俊一の背中を洗い出した。
「あ、ありがとう……」
初めてのことにすっかりうろたえてしまっている俊一だったが、珠奈の弱々しい力で背中を撫でられ、
何だか気持ち良いような、くすぐったいような、何だか変な気分だった。
2人を寝かしつけた後、俊一は今日も母親の携帯へ電話を入れた。
「なぁ。今日2人と一緒に風呂に入ったんだけど、その方がいいよな?」
「はぁ?」
(あれ、怒られる。やっぱりまずかったか?)
そう思った俊一であったが、
「お前、今まで2人だけで入らせていたのか。溺れたらどうするんだ。お前を溺死させてやろうか」
違うところで怒られた。
つーか、いくらなんでも息子相手に溺死はないだろう、と思う俊一だった。
「子どもだけでお風呂に入れるのは危険だ。お風呂でだって溺れる可能性がある。
それに、子どもだけでは体の細かいところまできちんと洗えない。そういうところまでケアするのがお前の役目だ」
(あぁ、やっぱりそうだったんだ)
「だいたい、何で今まで一緒に入ってやらなかったんだ。子ども相手に欲情しそうで恐かったのか、この童貞」
「ちげーよ。つーか、息子を犯罪者予備軍みたいな言い方するなよ」
「息子ってどっちの意味だい?」
「あーもー、切るからな、不良母」
「あぁ、しっかりやれよ」
「分かってるよ」
電話を切った後、俊一は大きく溜め息をついた。
「あの母親と話すといつも疲れるな……」
もしも、母親が2人を俺に預けず、自分で育てていたら……。
俊一はその恐ろしい考えを全力で頭の隅に追いやったのだった。
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<あとがき>
どうも、お久しぶりです。
最後に更新したのが2007年の1月。
現在2009年の8月……。
長らく放置してしまって申し訳ないです。
これだけ放置してしまうと、覚えていて下さる方がいるかちょっと心配です。
いや、自分が悪いんですが……。
今回は一緒にお風呂編です。
子どもはまだきちんと自分の体が洗えないので、小学校4年生くらいまでは、体の細かいところは洗ってあげた方がいい、と昔習いました。
まぁ、自分には子どもがいないので、今の自分にはあまり関係ないですが、
お子様がいらっしゃる方は、頭のホンの片隅にでも置いておいて下されば喜びます。
では、これからはもう2年以上も放置することがないように頑張りたいと思います(志ひく……)
これからもお付き合い頂けると喜びます。
それでは、またの機会がありますことを、お祈り申し上げます。
2009.08.22 御神楽 華音
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