ピンポーン
朝食の片付けが終わった頃、チャイムが鳴った。
すると、すぐに扉が開き、わらわらと人が入ってきた。
「シュン坊。おハロー。お久しぶり〜」
「ちょっとダメだよ、勝手に入ったら」
「チャイム鳴らしたじゃない。それに私とシュン坊の仲じゃない」
入ってきたのは、優たちチビッ子4人に加え、優と鉄太の母である真由子と、芽衣と沙佑の母の早希、計6人である。
「どうしたんですか、突然。しかも朝早くに」
「勿論、シュン坊の天使ちゃんを見に来たのよ。あ、この子たちね。うわぁ、可愛い〜」
真由子は、バタバタと上がると、瑞音と珠奈の頭をグシャグシャと撫でた。
今日はまだ髪を結んでなかったので髪がボサボサになった。
「母さん、いきなりそんなことしたらダメだよ」
「え〜」
優に叱られて、ブ〜と頬を膨らます真由子。
この2人を見ていると、真由子が自分より年上ということを時々忘れそうになる。
「!」
いきなり髪を撫でられた珠奈は、真由子の手が止まった隙をついて、その手から逃れた。
そして、パタパタ俊一に駆け寄ると、その後ろにかくれてしまった。
「あらら。恥ずかしがりやね」
「いきなりあんなことされたから、にげたんだよ」
呆れて優は溜め息をついた。
「だってこっちの子は……」
真由子は、そう瑞音の方を振り返ったが、
「あら?」
そこに瑞音はいなかった。
「瑞音なら俺の後ろにいますよ」
「ほら、にげられた」
「あぅ……」
真由子はしょぼんと項垂れた。
「瑞音、珠奈。この人は優と鉄太のお母さんだ。恐くないから出ておいで」
「そうそう、恐くないわよ〜」
「ほら」
俊一は、手を後ろに回して2人の背中を押した。
2人ともずりずりと俊一の背から出てきたが、それでも俊一の服を握って放さなかった。
「こっちは、芽衣と沙佑のお母さん」
「よろしくね」
「真由子さん。早希さん。こっちが瑞音で、こっちが珠奈です」
と俊一は、順番にポン、ポンと2人の頭に手を置いた。
「瑞音ちゃんと珠奈ちゃんっていうの。可愛いわねシュンちゃんも良かったわね、可愛い娘ができて」
「いや、早希さん。俺、まだ高校生ですから、せめて妹って言って下さい」
「あれ、シュンちゃんまだ高校生?」
「早希さん……」
この人は本気で言っているのだろうか……?
天然もここまでくると、もう一種の才能だ。
「ふふ。2人ともマユちゃんの所為で髪の毛ボサボサだね。結ぼうか?」
早希はそう言って2人の顔をそっと覗き込むが、珠奈はふるふると首を振って、再び俊一の後ろに隠れてしまった。
「珠奈、やってもらったらどうだ。俺なんかより、よっぽど上手だぞ、早希さんは?」
俊一もそう言うが、やはり珠奈は首を振り、
「お兄ちゃんがいい」
と言った。
「ふふ。シュンちゃん、好かれてるんだ。良かったね」
「あはは……」
俊一は苦笑気味に笑ったが、勿論満更ではない。
懐いてくれるのは嬉しい。
しかし、それでも俊一は2人にはもっとたくさんの人と関わりを持ってほしいと思った。
親に捨てられて、まだ間もないのだから、すぐには心を開けなくても、それでも少しずつ人と関わってほしい。
そう思った。
「じゃあ、瑞音。やってもらったどうだ?」
俊一に促されると、瑞音は少し戸惑った様子を見せながらも、
「はい。では、おねがいします」
と言って、おずおずと俊一の影から出てきた。
「ふふ。じゃあ、どんなふうにしようか?」
「あ、あの、おさげ、で……」
「そう、分かったわ」
瑞音はいつもの髪形を言ったのだが、早希は素早い手つきで髪を編んでいった。
「え、あの……?」
瑞音が戸惑っているうちに、あっという間に三つ編みおさげが完成した。
(早いなぁ……)
俊一に関しては、それを惚れぼれしながら見ていた。
自分はおさげやポニーテールをもたもた結ぶので尚更だ。
「瑞音、可愛いぞ」
「本当ですか?」
三つ編みを不思議そうに指で摘んでいた瑞音だったが、俊一にそう言われると、パアッと花が咲いたように明るくなった。
「あぁ、良く似合ってる」
「ありがとうございます」
俊一は、そんな瑞音の頭をポンポンと撫でてやった。
折角のキレイに結ばれた髪を崩さないように、そっと。
「お兄ちゃん。珠奈もこれ」
それを見て、珠奈が瑞音の三つ編みを指差して言った。
「え、三つ編みは無理だなぁ……。やっぱり早希さんにやってもらいなよ」
そう言ってみるが、珠奈はやはり、
「お兄ちゃんがいい」
と言うだけだった。
「じゃあ、シュンちゃん。教えてあげるから、やってみなよ」
「えぇっ、俺が?」
「そう、シュンちゃんが。だって、珠奈ちゃんがシュンちゃんがいいって言ってるんだから。パパとしてはやってあげなくちゃ」
「パパじゃありません」
「それにシュンちゃん、いつも同じ髪型にしてるでしょ。2人とも女の子なんだから、色々変えてあげなきゃ。ほらほら、沙佑を見て」
そう言って、早希は凄く嬉しそうに沙佑を俊一の目の前に持ち上げた。
今日の沙佑は、長い髪をそのままに、左右で一つまみ程の髪を三つ編みにしてあった。
髪の短い芽衣と違って、髪の長い沙佑は毎日色々な髪形をしている。
おさげにしてある時もあれば、お団子にしてある時もある。
髪を結ぶにも、リボンだったり、可愛いヘアピンだったりする。
それは多分、可愛い物が大好きと言う早希の趣味も入っているだろうが……。
兎に角、瑞音や珠奈も、折角髪が長いのだから、もっと色々な髪形にしてやれ、ということらしい。
「ほらほら、教えてあげるから」
爛々と目を輝かせる早希にグイグイ押され、俊一は珠奈の前に座らされた。
「まず、髪を左右で2つに分けて―――」
それから暫く、俊一は三つ編みの結び方のレクチャーを受けた。
「できた……」
疲労困憊。
きっと、今の自分に一番よく当てはまる言葉はこれだろう。
三つ編みというのは思っていた以上に難しかった。
髪を3つに均等に分けるのが難しければ、それを編んでいくのも難しい。
やっと2つの三つ編みが出来上がった時、俊一はぐで〜っと後ろに倒れ込んだ。
そこに、珠奈が上から覗き込み、
「お兄ちゃん、かわいい?」
と編んでもらったばかりの髪を指で摘んで見せた。
結んだのが自分なので、見れば見るほど形が変に見える。
けれど、
「あぁ、可愛いよ」
そう言って、ポンポンと頭を撫でてやった。
すると、次は瑞音のところへ行き、
「お兄ちゃんがかわいいって」
と嬉しそうに報告した。
「良かったですね、珠奈ちゃん」
「うん」
「ねぇ、シュンちゃん」
「はい?」
「嬉しいでしょ。一生懸命やって、喜んでもらえると」
「そうですか?」
俊一は、お互いの三つ編みを見せ合っている2人を眺めた。
「はい、そうですね」
これからは、偶には違った髪形にしてやるのもいいかな、とそう思った。
「ところでシュン坊。あんた、春休みはいつまでなの?」
俊一、真由子、早希の3人は、俊一の淹れたお茶。子ども達6人は、買い置きのジュースを飲み、
おみやげとして貰った煎餅を食べながらまったりしていた頃、真由子がそう言った。
「8日からですけど?」
因みに、月はもう4月に入っているので、「4月」は省いた。
「確か、小学校の入学式は9日だったわよね?」
「え、そうでしたっけ?」
そう言うと、真由子に呆れたように溜め息をつかれた。
「シュン坊。そんなことで8日になったらどうするつもりだったのよ。2人は置き去り?
それとも、学校に連れて行く?
それならいいけど」
いや、よくないよ……。
「えっと、保育園は8日からだったと思うので、珠奈の方は問題ないかと……」
「あら、そうなの。鉄太、あんた、8日から保育園?」
真由子の言葉に首を傾げる鉄太。
「マユちゃん。そういうのは、普通親が把握しておくものだよ」
今度は早希が呆れて溜め息をついた。
「まぁ、鉄太、沙佑ちゃん、珠奈ちゃんが保育園なら、優と瑞音ちゃんは芽衣ちゃんと一緒に早希が面倒見ればいいわけだ」
と言う真由子。
(どうしてそれを真由子さんが決めるんだろう?)
「うん、ウチにおいで。お昼何作ろう。今から楽しみだなぁ〜」
(まぁ、早希さんが気にしないならいいか)
俊一にとってもありがたいので、お願いすることにする。
(そっか。もうすぐ、春休みも終わりか……)
「ん?」
そこで、俊一はあることに気付いた。
「あ、宿題終わってないな……」
ここ数日、瑞音や珠奈が来たことでゴタゴタして忘れてた。
「何、高校って春休みにまで宿題出るの?」
真由子がダルそうに煎餅をかじりながら言った。
聞いた話、学生時代は全く勉強しなかったらしい。
「えぇ、ウチは春休み明けにテストもありますし、それの課題ですね」
「そんなの一夜漬けで何とかなるわよ」
「マユちゃんはいつだって何とかなってなかったじゃない」
「最終的には何とかなったわよ。卒業できたし」
「俺は卒業できればいいわけじゃないので……」
取り合えず真由子のことは放っておくとして、問題は宿題だ。
全く手付かずというわけではないが、まだそれなりに残っている。
(図書館でも行くか……)
瑞音と珠奈なら、図書館へ連れて行っても、騒いだりしないだろう。
近々、2人には絵本を借りてきてやろうと思っていたので丁度良い。
「だいたい、早希が助けてくれないから」
「ヤマ張ってあげたよ〜。そこをマユちゃんが覚えなかったんじゃない」
「あんなにたくさん覚えられないわよ」
2人はまだやっていた……
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<あとがき>
どうも、御神楽 華音です。
一ヶ月以内に更新できてホッとしております。
今回、漸く優、鉄太の母の真由子。
芽衣、沙佑の母の早希を出せました。
名前だけはもう随分前に出していたんですけどね……。
俊一が母親と離れて暮らしている為、現在の俊一の保護者代理という感じです。
三者面談なんかは、真由子、早希のどちらかが行きます。
自分だったらどちらにも来てほしくはないですが……。
高校って三者面談ありましたっけ?
保護者面談はあった気がしますが……。
あるところと無いところがあるんですかね?
さて、第十八話如何でしたでしょうか?
楽しんで頂けましたでしょうか?
楽しんで頂けたのであれば、それは私にとっての最大級の幸いで御座います。
では、またの機会がありますことを、お祈り申し上げます。
2009.09.13 御神楽 華音
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