「さて、今日の晩飯は何にするかな?」

いつもならコンビニ弁当、もしくは惣菜で済ますのだが、今日から三人暮らし。
それも、増えたのは幼児。
コンビニ弁当ばかりというのは、あまり体に良くないだろう。(自分のことは棚に上げて)
俊一は冷蔵庫を開けた、が……空だった。

(料理なんてしないからなぁ……)

包丁、フライパン、炊飯器等は、こちらに引っ越す時に母親が買ってくれたが、
炊飯器以外はあまり使わないので、殆んど新品同様だ。

「仕方が無い、買いに行くか」
(公園にまだ優(ゆう)たちが遊んでるだろうから、ついでに紹介してやるのもいいかもな)
「瑞音、珠奈。出掛けるぞ」
「はい、お兄さま」

俊一が呼ぶと、瑞音は直ぐに俊一のもとへとやって来た。
対する珠奈は、何だかぽ〜っとしている。
…寝起きだから?

「珠奈ちゃん、早く」

そんな珠奈を見て、瑞音が慌てて手を引いて連れて来た。

「お待たせしました、お兄さま」
「あぁ、別に急いでるわけじゃないし、いいよ」

必死だった。
俊一に嫌われないよう。
俊一は、瑞音に、いや、二人にとって、唯一頼れる存在で。
珠奈を慌てて連れて来たのも、俊一が珠奈に悪い印象(例えば、トロいとか言うことを聞かないとか)を持たないようにするためだった。
瑞音は、その小さな体で、珠奈を守ろうとしていた。
俊一がそのことに気付くのは、もっと後になってからだが……。

「よし、行こう」

部屋の鍵を閉め、俊一は二人の手をとった。

「あ……」
「……」

すろと、瑞音と珠奈が、揃って俊一を見上げた。
その視線の先には、繋がれた手に向けられている。

「あ、手を繋ぐのは、恥ずかしいか?」
「いえ、そんなことありません」

瑞音は慌てて首を振り、俊一の手を両手でしっかりと握った。
珠奈も黙って首を振った。

「そうか?」

結局、よく分からなかった。

 

 

 

 

スーパーに行く途中、俊一は二人を公園に連れて来た。
そこには案の定、いつも通り優たちが遊んでいた。

「あっ、俊にぃ」

優が真っ先に気付き、駆け寄ってくる。
他の三人もそれに続く。

「俊一お兄ちゃんっ」

足の速い沙佑(さゆ)が優を追い抜き、ジャンプして俊一に跳び付く。

「おっと」

沙佑の体重は軽いが、走ってきているので勢いがある。
ぶつかられる前に、脇下に手を入れて勢いを殺す。

「俊一お兄ちゃん、遊ぼう」

俊一の足にへばり付いて、沙佑が言う。

「あ〜、今は忙しいから、また今度な」
「え〜」

沙佑は不服そうに頬を膨らませた。
俊一はそのほっぺを指で押す。
すると、沙佑の口からブフっと空気が飛び出る。

「きゃはははっ」

沙佑はもう笑っていた。

「俊にぃ、その二人は?」

追いついた優が瑞音と珠奈を不思議そうに見る。

「あぁ、水原 瑞音と、その妹の珠奈。瑞音は優と芽衣(めい)同い年で、春休みが終われば、同じ小学校に通うからな。
で、珠奈は鉄太(てった)と沙佑と同じ保育園だ。仲良くしてやってくれ」

俊一がそう二人を紹介すると、瑞音は「よろしくお願いします」とペコリとお辞儀。
珠奈は無言だった。

「瑞音ちゃんと珠奈ちゃんっていうんだ。僕は、佐伯 優。よろしくね」

優はそう言って、にっこり笑った。
そのプレイボーイぶりに感心する俊一。
若干呆れも含まれているが……。

「俊一、ロリコンか?」
「どこで覚えた?」

俊一は鉄太に対し、軽くアイアンクローをかける。

「こいつは、僕の弟で鉄太。乱暴だから、気をつけてね」
「うるさいぞ」

鉄太は優に対して文句を言うが、アイアンクローから抜け出せずにもがいているだけ。

「それから、こっちが小菅(こすげ) 芽衣。で、俊にぃの足にくっ付いてるのが沙佑」
「よろしくね、瑞音ちゃん、珠奈ちゃん」

芽衣は二人ににっこりと微笑み、沙佑はにへ〜と笑った。

「芽衣はこう見えて泣き虫で、沙佑は見ての通り甘えん坊だ」

俊一がそう言うと、二人は「そんなことないもん」と俊一を叩いた。

「ところで、水原ってことは、兄妹じゃないよね?」
「あぁ、従兄妹だ。今日から一緒に暮らすけどな」
「やっぱりロリ…ぐっ!」

言葉の途中で、優が肘鉄を入れた。
鉄太はゆっくりと地面に伏した。
容赦ない……。

「そうなんだ。いいなぁ……」

優が何故か羨ましそうに瑞音と珠奈を見る。
何故……?

「沙佑も泊まりたい」
「夜に泣くから嫌だ」

以前も俊一のアパートに泊まりたいと駄々をこね、泊まりに来たことがある。
しかし、寝る前くらいに、「ママと寝る」と泣き出した。
結局、泣いている沙佑を負ぶって家まで送った。

「泣かないもん。お姉ちゃんが一緒なら」
「芽衣を巻き込むな」
「いいの。お姉ちゃん、俊一お兄ちゃんとこ泊まろう」

芽衣の腕を取り、甘える沙佑に対して、

「お兄ちゃんに迷惑がかかるからダメ」

と、やんわり嗜めた。

(大人だ。子どもなのに……)

「ところで俊にぃ、どこかに行くの?」
「あぁ、夕飯の買出し。そのついでに、二人をお前等に紹介しようかなと思って」
「またコンビニ弁当か?」

今までの俊一の食生活を知っている鉄太から突込みが入る。
というか、もう復活したらしい。
タフである。

「今日からちゃんと作るよ。簡単な物しか作れないと思うけど」
「瑞音ちゃんと珠奈ちゃんの為?」

鋭いなぁ、と感心する。
前から思っていたが、優はあまり子どもっぽくない。
もっとも、出会った頃より明るくなったので、それは良い事だと思う。

「まぁ、コンビニ弁当ばっかりじゃ、体に良くないだろ?」

俊一がそう言うと、

「自分の体も、もっと労わればいいのに」

と優が呆れて言った。

「でも、俊にぃのそういう優しいところ、好きだよ」
「あぁ、そりゃどうも」
(何でこうも子どもには好かれるんだろう……?)
「瑞音と珠奈はどうする。ここで優たちと遊んでいてもいいぞ。
買い物が済んだら迎えに来るし」
「いえ、お兄さまと一緒に行きます」

瑞音は即答した。

「珠奈も来るか?」

俊一がそう聞くと、珠奈はこくんと頷いた。
初対面でいきなり遊べというのも無理な話かと、俊一は納得した。

「じゃあお前等、またな」
「うん。俊にぃも、たまには僕たちとも遊んでよね」
「あぁ、また今度な」

手を振る優たちに手を振り返して、本来の目的地のスーパーに向かった。

 

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