二人を寝かしつけてから、俊一は一人で部屋を出た。
手には携帯電話。
俊一は電話帳から「母親」を探し、その番号を押した。

『どうした、出来損ない?』

数回のコールの後に聞こえてくる、いきなりの毒舌。
相も変わらずである。

「今日一日、何とか終わったよ」
『あぁ、どうだった、二人の様子は?』

俊一は、今日一日の出来事を母親に伝えた。

『そうか……』

話を聞き終えた母親は、そう吐き捨てるように呟いた。

『まず、珠奈ちゃんの方だが、食事の仕方については、あまり気にしなくていい。
食事をかき込むのは、ネグレクトを受けた子どもに出る症状のひとつだ。
それは、きちんと食事を与えてやれば、いずれなくなる。
だから、お前は三食きちんと食べさせてやるんだぞ』
「あぁ、分かってる」
『瑞音ちゃんの方も、気をつけて見ていてやれ。
あの子は、一度親に捨てられてしまった恐怖から、もう一度捨てられることを、何より恐れているんだ。
その為、お前に気に入られようと、色々と無理をしてしまうだろう。
しかし、あんな小さな子に、そんなことをさせる必要はない。
そんなことをさせてしまうと、いずれあの子は壊れてしまうだろう
せめて、お前の傍では、安らげるようにしてやれ』
「あぁ、分かった」

そう頷いて、俊一は通話を終えた。
明日、買い物に行くから、お金を入れてくれと頼むのも忘れずに。

「難しいな……」

あの二人と、そして、あの二人の傷と向かい合うには、自分はあまりにも若い。
けれど、やると決めた以上、絶対に二人の前では弱音は吐かない。
二人に、頼りにされたいからだ。
あの二人には、今頼れるのは、自分しかいないのだから……。

「おにぃ…ちゃん……?」

不意に、後ろから声がした。
振り返ると、珠奈が扉から顔だけを覗かせていた。
今、珠奈が初めて自分のことを、「おにいちゃん」と呼んでくれた。
それが、純粋に嬉しかった。

「どうした?」

俊一が尋ねると、珠奈は隠れていた扉から一歩出た。

「おにぃちゃんも、どこかいくの……?」

きっと目が覚めて、俊一がいなかったから、そう思ったのだろう。
そう言った珠奈の瞳からは、何も読み取れなかった。
その瞳を見下ろしながら、俊一は思った。
瑞音は、もう一度失うことを恐れ、珠奈は失ったゆえに、執着が無くなったと、そう思っていた。
しかし、それは間違いだった。
珠奈だって、もう失わないように、こうやって手を伸ばしているではないか。

俊一はしゃがんで、珠奈と目の高さを合わせると、その頭をそっと撫でた。

「どこにも行かないよ。ここに、お前たちの傍にいる」

自分をじっと見つめるその瞳を、しっかりと見据えて言った。
自分は、ちゃんとここにいると。
二人の傍にいると。
そのことが伝わるように。
すると、珠奈のその表情がふっと和らいだ。
僅かではあるが、微笑んだのだ。
ずっと表情が無かった。
スーパーでも、あれは僅かすぎて、よく分からなかった。
だが、今は確かに、珠奈が笑ったのだ。
嬉しかった。
珠奈が笑ってくれたことが。
自分でも、二人の負った心の傷を癒すことが出来るのではないか。
そんな、自惚れた考えさえ浮かんできた。
珠奈の笑顔が、その自信をくれた。

「さぁ、もう寝よう。明日はたくさん歩くからな」

そう言って、珠奈の小さな手を握った。
心成しか、珠奈は嬉しそうだった。

 

 

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あとがき

こんにちは、御神楽 華音です。
本当に久しぶりにの更新です。
二ヶ月ぶり、くらいですか?
本当に申し訳ないです。

さて、今回で一日目終了です。
長い一日でした。
次から二日目です。
次はどれだけ時間が掛かるでしょう?
そして、春休みはいつ終わる?

なるべく早くに更新できるよう頑張りたいと思います。
宜しければ、また読んでやって下さい。

ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
またの機会がありますことを、お祈り申し上げます。

20060624 御神楽 華音