昼食は何処か外で食べようと思っていたが、荷物が多かったので止めにした。
アパートに帰る途中、コンビニで弁当を買った。
「ごめんな。二日目なのに、もう手抜きの物食べさせて……」
昨日は偉そうなことを言っておいて、もうこのざまだ。
何だか情けなかった。
「いいえ、お兄様には、もうじゅうぶん、よくしていただいていますから」
しかも、慰められた……。
情けなさ倍増である。
それから、帰って三人で弁当を食べた。
その後、買ってきた食器を洗って、いつでも使えるようにしていた。
ついでに、夕飯の米を磨いだ。
その間、二人は買ってもらったヌイグルミで遊んでいた。
(疲れた……)
普段、家事などやってこなかったので、まだ昼過ぎだというに、妙に疲れた。
尤も、他人から見れば、こんなのは家事のうちに入らないだろうけど……。
俊一は、ベッドに背をもたれさせてドカッと座った。
すると、珠奈がチョコチョコと近づいてきた。
そして、俊一の膝の上に、ヌイグルミを抱いたまま、チョコンと座った。
そのまま頭を俊一にもたれさせて、俊一を見上げた。
「珠奈ちゃんっ。もうあかちゃんじゃないんですよ?」
それに気付いた瑞音が、慌てて珠奈を咎める。
瑞音は、俊一が疲れていることに気付いている。
だから、俊一を休ませてあげたいと思っていた。
それに、あまり迷惑をかけて、嫌われてしまうことを、何よりも恐れているのだ。
昨日、「お前達を愛する」と言ってもらったことは嬉しかった。
それ故に、瑞音は恐れているのだ。
その人に嫌われることを。
優しかった人に――自分が好きな人に嫌われてしまう辛さを、瑞音は身をもって体験していた。
しかし、珠奈は、俊一が自分達を嫌いにならないであろうことを、何か本能のようなもので感じ取っていた。
だから、瑞音と違って、俊一に気兼ねなく甘えた。
甘えることを我慢する瑞音と、甘えん坊の珠奈。
それは、これから長い間、変わることなかった。
「別にいいよ。瑞音もおいで」
それでも、瑞音が遠慮する度に、「甘えてもいいんだよ」と俊一が手を差し伸べる。
そうして、漸く瑞音も俊一に甘えることが出来たのだった。
「でも……」
躊躇う瑞音の手を、俊一は握った。
「ほら、おいで」
もう一度言う。
瑞音は一歩だけ近づいて、また躊躇った。
それから、一度ギュッと目を瞑った後、思い切って俊一の胸に飛び込んだ。
(ぐふっ!)
意外に激しく来たので、咳き込んでしまいそうになった。
しかし、そうすると、瑞音はまた気にするだろう。
だから、我慢した。
二人から伝わってくる体温と、寄り掛かる体の重み。
それが、何だか心地良かった。
暫くすると、二人からスースーと寝息が聞こえてきた。
「あらら、寝ちゃったよ」
昨日も、母親が言っていたが、その寝顔はとても穏やかで、可愛かった。
しかし……
「困ったな……。動けないや……」
二人は、頭を俊一の胸に預けて寝っている。
俊一の方は、足の間に二人を入れて、腕で二人を包むように抱いている。
それ故に、俊一は動くことが出来ない。
俊一は、もう一度二人の寝顔を眺めた。
何だか、二人と一緒に眠ってしまうのも、悪くないかもしれない。
そう思った。
俊一は腕をグッと伸ばして、ベッドの上の毛布を引き摺り下ろし、二人に掛けた。
そして、もぞもぞと寝やすい体勢を探し、ゆっくりと目を閉じた。
…………………………
……………………
…………………
……………
………
…
・
胸の上で、何かゴソゴソと動くのを感じて、目が覚めた。
珠奈が目をゴシゴシと擦りながら立ち上がる。
「おトイレ……」
「ん、行っといで」
珠奈はコクンと頷くと、パタパタとトイレへ行った。
瑞音はまだ眠っている。
時計を見ると、もう三時だった。
約一時間半眠っていたようだ。
(こんな体勢でよく今まで寝れてたなぁ)
とはいえ、体勢が体勢なだけに、若干首が痛い。
俊一は、コキコキと首を回した。
暫くして、ジャーっとトイレの水が流れる音がした。
その音の所為か、瑞音も目を覚ました。
「ん……」
体を起こして、まだ眠そうに目を擦る。
「おはよう、瑞音」
「え?」
俊一が話し掛けると、まるで寝ていたことに、今気が付いたかのように、キョロキョロと周りを見渡した。
そして、見る見る顔を赤くした。
「あ、あの、もうしわけありませんっ」
突然、瑞音はガバッと頭を下げた。
俊一にもたれて眠ってしまったことが、どうやら悪いことだと思っているようだ。
「どうして、誤るんだ?」
俊一はそんな瑞音の頭を、そっと撫でた。
「嬉しいよ、甘えてくれて。だから、これからも甘えてくれていい。その方が、嬉しいから」
俊一がそう言うと、瑞音は驚いたように瞳を揺らした。
そして、恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに頷いた。
それと同時に、珠奈が俊一の背中に抱きついた。
「勿論、珠奈もな」
そう言うと、珠奈は、ますますギュッと抱きつくと、頭を俊一の方へ寄せた。
俊一はそのまま、前に瑞音、後ろに珠奈を抱いたまま立ち上がった。
子どもといっても、流石に二人同時は結構重い。
「さて、まだ三時だし、遊びに行くか。多分、今日も公園に行けば優たちがいると思うし」
二人がしっかり持てずに、ずりずりとずり落ちていく。
下に降りると、珠奈は今日買った帽子を被り、一緒に瑞音の帽子も持ってきた。
「ありがとう、珠奈ちゃん」
瑞音は受け取った帽子を、嬉しそうに被った。
そして、三人はまた手を繋いで、公園へ向かった。
珠奈は、時々ピョンピョンと飛び跳ねて、俊一の腕にぶら下がろうとした。
その度、俊一はグッと力を入れて、一秒程度、珠奈を浮かして、また地面に下ろす。
そんなことを繰り返しながら、歩いていった。