「あっ、俊にぃ」
公園に着いて、優が最初に俊一たちに気付く。
それは、いつもそうだ。
「待ってるんだよ、俊にぃのこと」
それは、いつか優が言った言葉だった。
「俊一おにいちゃんっ」
それでいて、いつも俊一のところに来るのは、一番足が速い沙佑だ。
「僕のほうがとしうえなのに……」
以前、そう愚痴っていた。
「あ、瑞音ちゃんと珠奈ちゃんも、こんにちは」
「こんにちは」
瑞音だけが答えて、珠奈は相変わらず黙ったままだ。
「珠奈、こんにちは、だって」
俊一がそう促すと、珠奈は俊一を見上げた後、
「こんにちは……」
と俊一向かって言った。
「いや、俺にじゃなくて……」
「いいよ、俊にぃ。『ひとみしり』ってやつなんでしょ。そのうちなれるよ」
「あ、あぁ。そうだな……」
(それより、こいつは本当に小学校に上がる前の子どもか……?)
優の子どもっぽくない言葉に、思わず苦笑する。
「それより、今日は遊べるの?」
「あ〜、そうだな。まぁ、偶にはいいか」
「やったぁ。じゃあ、オニごっこしようよ」
「あぁ、いいよ」
正直、優たちと遊ぶのは結構疲れる。
けれど、一緒に遊ぼうと言ってもらえるのは、けっして嫌ではない。
俊一自信も、割りと楽しんで遊んでいる。
それに、ここのところ、あまり構ってやれなかったし、偶にはいいだろうと思った。
「俊にぃ、早く」
「分かった分かった」
それから俊一は、みんなでオニごっこをして過ごした。
勿論、瑞音と珠奈もだ。
尤も瑞音はずっと俊一の手を握って放さなかった。
それを鉄太がからかい、優が昨日のように肘を入れた。
鉄太は地面に蹲ってピクピクしている。
(相変わらず容赦ないなぁ……)
だが、自業自得だというように、芽衣も沙佑も心配していない。
それどころか、心配して近づいていった瑞音の両腕を二人で片方づつ掴み、
「ちかづいたらだめだよ」
「かみつくよ」
と言って引き離してしまった。
(容赦ないなぁ、相変わらず……)
俊一は苦笑してそれを眺めていた。
「よし、オッケー」
ドライヤーを掛け終わり、瑞音の頭をポンポンと叩く。
因みに、今日は二人ともただ濡らしたわけではなく、ちゃんと髪を洗ったようだ。
しかし、5歳6歳の子どもでは、一人で洗うのは無理だと思ったので、デパートで子ども用の泡シャンプーとシャンプーハットを買った。
それでも、きっと細かなところは洗えていないだろう。
(やっぱ、一緒に入るべきなのかなぁ……)
「お兄ちゃん」
考えごとをしながらドライヤーのコードを巻き取っていた俊一に、珠奈が負ぶさってきた。
珠奈は、もうすっかり俊一に甘えるようになっていた。
尤も、人見知りをするので今日も俊一と瑞音以外の人とは関わろうとしなかったが。
「ほら、歯磨いて、もう寝ろ」
俊一は、珠奈を背中に乗せたまま立ち上がった。
勿論、そのまま立てば珠奈の腕で首が絞まるので、左手で珠奈を支えた。
そして、洗面台の前まで連れて行き、そこで降ろした。
今日は、もう台を買ってきてあるので、俊一がやることは、仕上げ磨きをしてやることだけだった。
「お兄ちゃん、いっしょにねよう……?」
歯磨きが終わると、珠奈がそう言って俊一のズボン裾を引っ張った。
「え?」
思わず、俊一は時計を見た。
時間は九時。
正直、まったく眠くない。
しかし、ジッとこちらを見上げている珠奈の瞳を見ると、断ることができなかった。
「なら、少しだけな」
結局、珠奈が寝るまで一緒に横になっていようと思った。
「じゃあ、布団に入って」
珠奈を布団に促し、自分も横になろうとした時、珠奈は、
「お兄ちゃん、こっち……」
と反対側を指差した。
「さんにんでねるのっ」
「珠奈……」
子どもは、純粋で優しい。
親に愛されなかった珠奈にとって、瑞音は唯一のよりどころだったに違いない。
そして、今珠奈は、俊一と出会った。
俊一は、自分に優しくしてくれた。
「甘えてもいい」と言ってくれた。
珠奈は、そこで初めて、甘えられる存在ができたのだ。
人見知りする珠奈が、この短期間で懐いた理由がそれだ。
二日で、俊一のことが好きになった。
だから、その俊一と、もう一人の好きな人と、みんなと一緒に寝たい。
そう思った。
「そっか。そうだよな」
俊一は、二人の間に横になった。
すると、珠奈が服の裾をキュッと握ってきた。
珠奈の方へ首を捻ると、珠奈はもう目を瞑っていた。
一方の瑞音は、まだ目を開けて、俊一の方をジッと見ていた。
「ほら、瑞音も、もうおやすみ」
空いている方の手で瑞音の頭をそっと撫でた。
「はい。おやすみなさい、お兄さま」
瑞音は、なんだか照れくさそうに微笑んで目を閉じた。
そして、暫くすると、「スースー」という寝息が聞こえてきた。
俊一は、ゆっくり体を起こそうとした。
その時、裾を珠奈に掴まれたままだったことに気付く。
俊一は、それをそっと解いた。
(柔らかいな……)
それは、二人と手を繋ぐ度に思ったことだ。
柔らかく、小さな手。
二人の両親は、この手を握ってやっていたのだろうか?
それとも、たったそれだけのことすら、してもらえなかったのだろうか?
(いけねぇ……)
つい、ネガティブになってしまった。
それを振り払うように首を振る。
俊一は、珠奈の手を布団にしまって、布団を掛け直した。
そして、二人の寝顔を眺める。
――天使の寝顔。
俊一は、昨日母親が口にした言葉を思い出した。
子どもの寝顔は天使というけれど、成程、確かに的を得ている。
(あれ、それは赤ちゃんの寝顔だっけ?
まぁ、いいか。可愛いことに変わりはないし)
子どものことを、こんなにも可愛いと思った事はなかった。
(ヤンチャだからなぁ、あいつら……)
優たちも、あれはあれで可愛いのだが、それでも、瑞音と珠奈には、優たちにはない愛しさのようなものがある。
「傷ついた天使、か……」
俊一は、自分の右肩に手をやった。
「二人は親を。俺はテニスを失った。俺は天使ってわけじゃないけど、お互いに傷ついたことに変わりない」
――この子達の傷を癒していく日々の中で、安らぎを見出せ。
母親に言われたことを、少し理解できたような気がした。
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あとがき
はい、2日目終了です。
長いなぁ……。
今更ですが、チビッ子4人組。
4人は多い……。
私に扱いきれる人数ではない……。
しまったな……。
しかし、後に重要(?)な役割を用意してあるので頑張ります。
(そこまで辿り着くのにあと何年かかるかなぁ)←ぇ?
20061118 御神楽 華音