初めてラケットを握ったのは、小学校に入学して、暫くした時だった。
たまたま、地元のテニスクラブの横を通りかかった時だ。
それは、一目惚れに近かった。
二人の人間が、ネットを挟んでボールを打ち合っていた。
小さなボールを自在に操り、最後は体をバネの様にして、上からボールを叩きつけた。
寒いわけでもなく、恐いでもなく。
けれど、鳥肌が立った。
そんなことは、生まれて初めてだった。

母に頼み込み、自分もそのテニススクールへ通わせてもらった。
初めて打ったボールは、1メートル程しか跳ばなかった。
悔しかった。
初めて見た時の衝撃が忘れられない。自分も、あんなふうに打ちたい。
それを胸に、練習に明け暮れた。
そして、直ぐに、同じ歳の子の中では、一番になった。
嬉しかったし、何より、テニスが楽しかった。
ボールを追いかけ、それを打ち返す。
言葉にすると、ただそれだけ。
しかし、そのそれだけの事が、何よりも楽しかった。

そのスクールには、小学生から高校生までの人が通っていた。
その中で、ランキングというものがある。
中学三年の夏。
そのランキングの一位になった。
つまり、そのスクールの誰よりも強くなった。
高校生にだって負けなかった。
相手は自分より体は大きかったが、足を使ってボールを拾い、自在な回転で相手を翻弄した。

様々な大会で優勝した。
いつの間にか、周りから天才だと持て囃された。
そう言われるのは、好きではなかった。
努力をしていないように言われている気がしたのだ。

それから、中学も卒業という時、星徳高校という所から推薦を貰った。
いや、ただの推薦ではない。
特待生としての誘いだ。
星徳高校の名前は知っていた。
二年連続、全国大会を制した学校だ。
全国三連覇の為に、是非力を貸してほしいとのことだった。
全国1の学校で、自分の力を試してみたい。
そう思って、その誘いを受け入れた。
今にして思えば、素直に地元の高校に通っていれば、テニスを失うことはなかったかもしれない。
だが、後悔はしていない。
寧ろ、誇りにさえ思っている。
自分は、右肩を代償に、一人の幼い命を救うことが出来たのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「お兄さま、これはなんですか?」

その日、俊一は掃除をしようと思い、掃除機を出した。
その際、瑞音がそれを見付けた。
俊一が以前使っていたラケットだ。

「あぁ、テニスのラケットだよ」
「てにす……?」

俊一は、ラケットを取り出すと、瑞音に持たせてやった。
ついでに、一緒にボールも出してやる。

「このラケットで、このボールを打つんだ」

瑞音は、ボールをじっと見つめ、オズオズとそれを掴んだ。
そして、それをラケットに当てたり、転がしたりした。

「興味あるなら、やってみるか。俺でよければ、教えるぞ」
「いいんですか?」
「あぁ」
「ありがとうございます」

瑞音は、そう満面の笑みを浮かべた。

「お?」

すると、向こうでヌイグルミで遊んでいた珠奈が、俊一の背中に負ぶさった。

「珠奈もやってみるか?」

俊一がそう言うと、珠奈は俊一の背中にくっ付いたまま、首を捻った。

「まぁ、ラケットで打たなくても、ただボールで遊んでてもいいし。取り合えず、一緒に行こうか」

珠奈は、それには直ぐに頷き、キュッと更に俊一にくっ付いた。

「じゃあ、掃除をしたら出かけるか」

言ってから、それがもうすっかり自分が所帯染みていることに気付き、少し落ち込んだ。

 

 

いつも優たちが遊んでいる公園の横に、壁打ちが出来るスペースがある。
そこは壁打ち専用のようで、『壁打ちは朝野7時から夜の7時まで』という注意書きすらある。
尤も、そこで壁打ちをする人は少ないが……。

俊一は、カバンにラケット三本と、ボールを入れて、左肩に担いだ。
そして、右手で珠奈と手を繋ぐ。
両手が塞がってしまって、瑞音と手が繋げなくなってしまった。
その代わりというわけではないだろうが、瑞音は珠奈と手を繋いだ。
今日も、珠奈はピョンピョンと飛び跳ねていた。

 

 

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あとがき

今回は少しだけ俊一の過去の話を書きました。
セリフ無しで、説明文みたいになってしまって、ちょっと読みにくいやも……。
申し訳ない……。

さて、「傷だらけの天使達」第十三話、如何でしたでしょうか?
楽しんで頂けたらいいなぁ、と思います。
では、またの機会に。

 

20061130 御神楽 華音

 

 

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