公園に着くと、そこには既に優達が遊んでいた。

「俊にぃっ」

いつものように、優が最初に俊一に気付く。

「俊にぃ、それは?」

駆け寄ってきた優が、俊一が肩に担いだカバンに目をつけた。

「ラケットだよ、テニスの」

俊一がそう言うと、優が目を輝かせた。

「俊にぃ、またテニスやるの?」
「いや、やるのは瑞音と珠奈だよ。俺は教えるだけだ」

俊一がそう言うと優は、

「そうなんだ……」

とガックリと肩を落とした。

「俊にぃ、ぼく――」

何か言おうとした優の頭を、俊一はポンポンっと叩いた。
優は、なんだか寂しそうに俊一を見上げた。

「なんなら、お前らもやってみるか?」

俊一は、そう優達にラケットを掲げて見せた。
すると、みんな一斉に「するっ」と声を揃えた。
なので、俊一達はみんなで壁打ちスペースに移動した。
そこには、案の定誰も使っていなかった。

「ラケット3本しかないから、順番な」
「沙佑がさいしょ」
「オレもオレも」
「だから順番っ」

そんなこんなで、子ども達は順番に壁打ちを楽しんだ。
瑞音と優は、なんだか必死になってやっていて、それが逆に微笑ましかったし、
芽衣と沙佑は、姉妹で仲良く順番にやっていたし、
鉄太は力任せにブンブン振っていた。
瑞音、優、芽衣の三人は、年上だけあってある程度はこなしている。
そして、意外に上手いのが沙佑だった。
沙佑は足も速いし、運動神経が良いのかもしれない。
一方、珠奈の方は一回やったきり、地面に石で絵を描いて遊んでいる。

「珠奈は、もうやらない?」

そんな俊一の言葉に、一度首を傾げた後に頷いた。

「そうか」

面白くなかったのだろうか?
確かに、子どもがあっさり出来てしまう程簡単ではない。
だが、自分が好きなスポーツを好きになってもらえなかったのは少し寂しかった。

「珠奈は、絵を描くのが好きか?」

それに、珠奈はさっきとは違って、直ぐに頷いた。

「今は何を描いてるんだ?」
「珠奈と、おねぇちゃんと、おにぃちゃん」

その絵は、三人が手を繋いでいて、ニコニコと笑っていた。
どうやら、真ん中が俊一のようだ。

「そうか。上手に描けてるな」

そう頭を撫でてやると、珠奈は、はにかんだ様に笑った。

「わぁ、瑞音ちゃん、すごいっ」

沙佑の歓声に振り向くと、瑞音が壁打ちを、二回、三回と連続してやっていた。

「おぉ、今日初めてやったのに凄いじゃないかっ」

俊一も感心した。
とその瑞音の横で、優も連続でやった。

(あれ。壁打ちって、あんなに簡単だったっけ?)

予想外の上手さを見せた瑞音と優に、俊一は首を傾げた。

「俊にぃ、どう?」
「あぁ、上手いな、ビックリした」
「ほんとに?じゃあ、ぼくインターハイにいける?」
「そうだな。頑張ればいけるかもな」

それは嘘ではない。
なんとなく、優には才能のようなものがある気がした。
勿論、それを活かすも殺すも、優次第だが。

「ぼく、がんばるよ。ぜったい、インターハイにいく、それで、俊にぃがしたかったこと。
3ねんれんぞく、インターハイゆうしょう。ぜったいやるよ」
「今からそんな目標持たなくていいよ。今はただ、テニスを楽しみな」

俊一はケラケラと笑って、優の頭を撫でた。
自分の変わりをしてほしいとは思わないが、そう思ってくれるのは嬉しかった。
テニスは出来なくなったが、今でもテニスは好きだ。
だから、優達もテニスを好きになってくれたらいいなと思った。

「あの、お兄さま」
「ん?」
「いんたーはい、ってなんですか?」
「あぁ、高校生が出る大会って言えばいいのかな。テニスの他にも、サッカーや卓球、柔道、色々なスポーツがあるんだ」
「お兄さまは、でたことがあるのですか?」
「あぁ、あるよ」
「ゆうしょう、されたのですか?」
「まぁ、一応」
「わ、わたしも、でれますか?
「あぁ、出れるよ。試合に勝てばね」
「えぇっ、だめだよ。インターハイには、ぼくがでるんだから」

慌てたように、優が瑞音を止める。

「いや、別に――」

「二人ともでれるよ」そう言おうとした俊一より先に、瑞音が珍しく優に食って掛かる。

「いえ、インターハイに出るのは、わたしです。優くんにもまけません」
「ぼくだよ。おとこのほうが、きんにくがつきやすくてつよいって、かあさんがいってたんだ。ぼくのほうが、ゆうりだよ」
「なら、わたしは優くんよりどりょくします」
「じゃあ、ぼくはそれよりもっとがんばる」
「わたしが」
「ぼくが」

「「インターハイにでる(でます)」」

しっかりと、真っ直ぐに相手を見て、お互いに闘志を燃やす。
瑞音にこんな一面があったとは知らず、俊一は少し驚いた。
そして、本人達は至って真剣なのだろうが、それが俊一からすれば微笑ましかった。

「インターハイは男の子と女の子は分けてやるから、二人とも出れるよ。勿論、他の人に勝てば、だけどね」
「ほんとうですか?」
「あぁ」
「じゃあ、ふたりででよう。ふたりで、インターハイでゆうしょうだ」
「はい」

さっき言い合っていた二人が、今はもう笑っている。
子どもはこんなところがいい。
俊一は二人の頭をくしゃっと撫でた。

「「?」」

二人は不思議そうに俊一を見上げた。

「よしっ。じゃあ、そのラケットは暫く二人に貸しといてやるよ。壁打ちたくさんして、練習しな」

本来なら素振りをした方が良いのだろうが、6歳の子どもに素振りをさせても面白くないだろう。
今はただ、楽しく打ってくれればいい。

「俊一お兄ちゃん。沙佑も」
「オレもオレも」

ワンパクな二人、沙佑と鉄太も揃って袖を引っ張ってきた。

「あ〜、ラケット3本しかないしな。じゃあ、鉄太は優と一緒に使え。沙佑は芽衣と一緒な」
「「うんっ」」

俊一から嬉しそうにラケットを受け取る沙佑と、優に「かしてかして」とラケットを持つ鉄太。

「言っとくけど、貸すだけだぞ。やらんぞ」
「わかってるよ〜」

なんだか本当に分かっているのか心配だが、無邪気にラケットを振っている沙佑や鉄太を見ると、まぁいいかと思った。

「俊一お兄ちゃん。沙佑も、いんたーはい、でるからね」
「あぁ、頑張りな」

瑞音と優にやってやったように、沙佑の頭も撫でてやる。

「へへ〜」

沙佑はくすぐったそうに身をよじった。

(インターハイか……)

この中の誰かが、本当にインターハイに出たら、それは嬉しいことだろう。
彼等がテニスを続けたとしたら、彼等に最初にテニスを教えたのは自分ということになる。
それは、とても名誉なことだろう。

瑞音、優、沙佑の三人は、これからも長くテニスを続けることになるが、今の俊一は勿論、それを知らない。
それは、まだ先のお話。

 

 

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―――――――――――――――

<あとがき>

瑞音はおしとやかな性格で、争いごとは好みません。
しかし、そんな瑞音にだって譲れないことがある。
今回の話は、そのことが表すことが出来てたらいいなぁと思います。

さて、今回の第十四話、如何でしたでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたのなら、それは書いた私にとっての幸いでございます。
ずっと月一回程度の更新でしたが、最近はそれより若干早いペースで更新できています。
このペースを意地できればよいのですが……。
それでは、またの機会に。


20061206 御神楽 華音

 

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