弱者は強者、強者は・・・?


 ずっと昔にあった不思議な国のお話をしましょう。

 その国は大層変わった国でした。何が変わっているかというと制定されている「法律」でした。
 その国が建国された時、一般の民の出であり革命を起こして王様になったため、自身が『弱肉強食』のもとで獲た国を自身の物とするため、前国王の二の足を演じるまいと『弱者が強者』という思想をベースにして法律を制定したからさあ大変。建国早々、国中が大騒ぎとなりました。
 「強者の権力は弱者に影響を与えない」、「強者の財は弱者へと分け与える」、「弱者の苦しみは強者と分かち合う」等の今までに類を見ない法律ばかりでした。
 当然社会的弱者は大層喜びました。しかしこれも王様の敵となりうる強者の過剰な力を押さえつける、結局は自身の地位の安定の為の打算的な法律なのでした。
 そんなヘンテコな法律が施行された最中に起こったある事件のお話です。

 とある田舎の村に住む、頭は切れるが食べる物に困った男が、最後の手段としてその王様の城に盗みに入りました。
 しかし男は物色している最中に、城の警備兵に見つかってしまいます。
 むざむざ捕まるわけにもいかない男は、警備兵と取っ組み合いとなって兵士に怪我を負わせてしまいます。挙げ句の果てに騒ぎを駆けつけた衛兵達の手によってあっさり取り押さえられ、結局のところ未遂事件となってしまいました。
 当然その話を耳にした国王は大層ご立腹。何といっても自分の財を盗まれそうになったのです。
 未遂ながらも今後の事を考え、その泥棒を自ら裁くため、公開裁判を開く事となったのです。王様の初裁判とも有り、様々な傍聴者が参列しました。その中には王様が差し向けたさくら達も多数混じっていました。
 王様は裁判を打算的に見ていました。裁判の結果、罪を軽くすれば民衆から「情けをかける、徳のある王様」として認められるであろうし、仮に重くしたとしても今後の窃盗事件も防止になるだろう・・・と。

 王様と泥棒はある程度の距離を保ち、向かい合っています。
「この城に盗みにはいったのは君で間違いないね」
「はい・・・」
泥棒は王様の威厳のある声に萎縮し、小さな声で返事をします。
「ではその課程で城の警備兵に怪我を負わせたのも事実だね」
「・・・はい、認めます」
「では何故君は物を盗もうとしたのだ」
王様は泥棒に問います。
「それは・・・あまりに生活が厳しすぎて、食べるものにも困り仕方なく入ったわけであります・・・」
その泥棒は見るからに貧しく、王様の目にも本当のことを述べているように映りました。
「そうか・・・しかし何故わざわざ私の城にまで盗みに入ったのだ」
「それは・・・」
煮え切らない泥棒の態度に王様は少し強い口調で問い質し、そのせいで泥棒はさらに萎縮してしまいます。傍観者達からも野次が飛び始めました。
「何だ、言いたいことがあるなら言ってみたまえ」
王様はさらに強い口調で言います。するとついに意を決した泥棒は自分の考えを述べることとなりました。
「一番お金のあるところに盗みに入ったとしたも・・・問題がないと思ったからです」
「何を言っておるんだね、君は。窃盗が罪ではないと言うつもりかね」
開き直った泥棒の態度に怒りの頂点に達した王様は、泥棒を怒鳴りつけました。傍観者達も泥棒の態度に対し、さらに怒りを覚えます。しかしそんな王様の態度にもひるまず泥棒は言い返します。
「つまり財のある『強者』である王様の元から、財のない『弱者』であるこの僕に財が与えられるはずなのです。これは法律でも奨励されている事ではありませんか」
その泥棒の一言で辺りは静まりかえりました。泥棒の言葉はこの法律の大きな穴をついてしまったからです。王様はおろか様々な野次を入れていたさくら達もすっかり黙り込んでしまいました。
「『強者の権力は弱者に影響を与えない』つまりあなたがどんな判決をしても、私には何の影響もありません」
「何を言い出す・・・」
なんとか口を挟もうとした王様でしたが、泥棒の口からついに決定的な一言が言い放たれました。
「『弱者は強者』言い換えると『強者は弱者』。つまり『1番の強者』である王様は、『1番の弱者』であるのではないですか」

 その裁判は結局はあやふやになってしまいましたが、王様は10日と経たずに失脚してしました。そしてその後も様々な人々がその国の王様なりましたが、『強者が弱者』の法律の下で長い間王様の地位を保てる者は誰1人としていません。そうしてその国は滅びていきました・・・。

 『弱者が強者』は『強者が弱者』。自分の制定した法律の大きな落とし穴に気付けなかった『1番の強者』であった王様は、失脚した後、よりによって自分の制定した法により『1番の弱者』になってしまいましたとさ。


戻る