現在12月24日、午後8時30分。
俺は当てもなく、一人ぶらぶらと町を歩いている。
街路樹が色とりどりの電飾に飾られ、普段でもにぎやかな大通りをさらに賑わしている。小さな子供を連れた家族やら、密着度のやたら高いカップルやらがこの通りの大半を占めているのだ。サンタクロースの服をしたおねーちゃんが積極的にケーキを売っていたり、街頭は赤い布で飾っていたり町中がサンタクロースレッドとでも言うべき華やかな赤で彩られている。しかし自分に関係している赤と言えば、目の前にこうこうと光る赤信号と、ショーウインドウに映るまだ痛みのする真っ赤にはれた額、それと渡すはずだったプレゼントの包みの赤くらいの物だった。
2時間前、最寄りの駅のコンコースにあるモニュメントの前で俺は彼女と待ち合わせをしていた。お互い別々の高校に通っているため週1程度しか会えなかったが、それでも順調に付き合っていた。しかし先月、今月は日々をバイトと部活に明け暮れていたため会う機会がほとんど無く、メールの返信も思うように返せないでいた。デートと呼ぶにふさわしいデートは約一ヶ月半ぶりくらいであり、普段は遅刻気味に待ち合わせ場所に到着する俺だったが、彼女と久々に会えるといても立ってもいられずに、約束の時間の30分前には現場に到着していた。
そうして15分ほど待つと改札口からこちらへと向かってくる彼女を見かけた。どうやら彼女は俺にまだ気付いていないらしく、やたらときょろきょろ辺りを見回していた。俺から見かけ声をかけようと思ったが、彼女の様子がちょこまかしていて面白かったので黙ってみていることにした。
彼女の名前は涼花。背格好は小柄(彼女は身長を聞くとすぐ怒り出すので、詳しい数値は知らないのだ)で童顔。俺と同い年の16歳にもかかわらずよく中学生と勘違いされ、極たまにではあるが小学生と見間違えられることもあった。対する俺は老け顔で、年齢の平均身長をゆうに超えている「のっぽさん」であり、身長差は30cm以上、下手すれば40cm近くあるんじゃないかと思う。二人で手を繋いで歩いていたりすると仲の良い、年の離れた兄妹によく間違えられる。最近は「親子って言われないだけましなのか?」なんて思ったりするわけだ。そんな彼女の性格は抜群で、優しく、思いやりがあり、世話焼きで、よく人に気を遣っているような良い娘。よく勘違いや失敗をしたりもするがそんなところも可愛いと言い切れる。いろんな意味で俺に不似合いな彼女である。
と、そんなこと考えている間に俺がいることに気付いたらしくぱたぱたと駆け寄ってきた。
「堅太君、今日は早かったんだね〜」
満面の笑みを一撃俺に食らわせる。その上いつもと違う雰囲気とも相まって不覚にもドキッとした。いつもだったら制服で来る所を今回は私服で決めてきた。紺のロングコートにロングスカート、さらにショートカットだった髪も少し会わないうちに伸ばしたのか肩まで掛かるセミロングに、そして少し甘い香りがするのは香水でも付けてるのかもしれない。
「まあね・・・少し早いけど、夕飯でも行こうか」
そう言うと俺は視線をそらしてスススと歩き出した。久しぶりだからか、彼女を想像以上に可愛く感じてしまったため自分の彼女だというにもかかわらず若干頬が熱い・・・しかもどことなく緊張している。何となくそんな顔を見られたくなくてガキのような行動を取ってしまった自分が情けなく感じた。
「・・・うん、そうだね」
彼女の声が少し元気がなかった気もするが、そのときはあまり気にしてはいなかった。
街の大通りを二人で並んで歩く。夕飯の店などは予約を取ってなかったので、ウィンドウショッピングをしがてら店も探すと言うことになった。アレも良いなぁ、コレも良いなぁと人混みをスルスル駆け抜けてあちこちぱたぱたと走り回って無邪気にはしゃいでいる。彼女を見ていると何だか少女のお守りをしている気になってくる、まあ身長が小さいことで余計ましているんだと思うが。要は妹感覚ってものなのだろうか、一人っ子の俺にとっては新鮮な感覚であった。
そんな彼女がふと足を止めたのはとある洋服屋のウィンドウの前であった。
「あ〜あ、売り切れちゃったかぁ・・・」
微笑みながらため息をつく。その表情がやけに大人っぽく、さっきまではしゃいでいた彼女とはまるで別人のように感じ取られる。
以前デートしたときに彼女が欲しいと言っていたことははっきり覚えている、白のロングコートであったはずだ。
「欲しかったんだけどなぁ・・・でも高かったしなぁ・・・まあいっか」
頬をかきながら俺の方を向いてにっこり笑う。笑いながらも悲しそうなその表情に何となく見とれてしまっていた。
「・・・ああ、残念だったな。さっさと買っておけばよかっただろうに」
少しボーとしていたおかげで反応が遅れさらに言い方もきつくなってしまった。
「そう・・・だね。さ、気を取り直してお店を探しましょーか!」
そう言うと何事もなかったかのごとくパタパタと走り出す。この調子だといつ夕飯にありつくのか心配になってきた。
なんだかんだ言って7時半にはレストラン・・・もといファミレスに入っていた。言うところの「おしゃれレストラン」は既に予約でいっぱいだったり、満席だったりとすったもんだだったため当然の結果になった。このファミレスに入るにしても30分ほど待たされたわけで、夕飯にありつけただけでもよしとするべきだったということだろう。来年はきちんと予約をしておこうと心に誓ったのは既に1時間前のことであった。
「でもまあ良かったよねぇ、お店に入れて」
注文も取り終え二人でひと息つく、冷え切った手先が暖められた店内によってむくんでいる感じがした。
「確かに、今度来るときは気をつけなきゃな・・・」
頭をぽりぽりかきながら言った。クリスマスイブをなめていたと言うことになるのだろう、しかも今日金曜日で混雑するのは目に見えていたしな。
数十分後、テーブルの上には食事が載せられていた。結局特別なメニューを頼むこともなく、クリスマスなのは店内の装飾だけになってしまっている。
「ねえねえ堅太君、最近どうしていたの?」
彼女はフォークとスプーンを皿の上に置いて俺に訊ねてくる。突然の質問にビクッと反応してしまった気がするが、配られた水を一口含み気を落ち着かせる。
「さ、最近って言ってもなぁ、別に取り立てて何にもなかったけど」
と何となくごまかす、彼女にはバイトを始めたことを言っておらずもう少しの間秘密にしておきたい気分だった。
「でもさ、ここ2ヶ月くらいまともに会えなかったし」
彼女は口をとがらせてぶすっとした表情になる。やはりちょっと怒っているみたいだ。
「いや、ほら、部活が最近忙しくってさ」
「でも確か休日は部活無いでしょ」
彼女はいつになくずずっと攻めてくる。その目は明らかに俺を疑い始めている。もう少しだけなんだ・・・今、本当のことを言ったら今までの、この2ヶ月間の計画が総崩れになってしまう気がする。とっさに名案が思い浮かんだ気がする。
「いや、ほら、今度大会があるから。週末も予定に入れられてて」
名案は名案ではなかった・・・が、コレでどうにかやり過ごせるだろうと思った俺はバカだった。
「何の大会?新人戦はとっくに終わったし、地区大会は来年の頭だからそんなに前から忙しくなるはず無いよね?」
じと目で俺をにらみつける・・・疑っているとか言う以上にもう確信している。・・・隠しきれない、もう白状するしかなさそうだな。
「いや、実は・・・」
「もう、私に飽きたんだよね・・・」
ぼそっとつぶやき始めた彼女。コレはヤバイ。本能が確実に物を申している。
「私って背も小さいし、頭良くないし、スポーツ出来ないし、綺麗じゃないし・・・」
いきなり別れ話に突入ですか!?いや、そんなこと全くないし。性格良いし、綺麗って言うよりむしろかなり可愛いから・・・と口に出せない俺。
「い、いや、ちょ、ちょっと、落ち付けって」
彼女も落ち着いてないが俺の方が落ち着いてない。しかし彼女は止まらない。
「分かってる、慰めてくれようとしてるんでしょ・・・堅太君優しいから・・・」
お別れフラグ既に立ってるんですか!?
「ちょっと俺の話を・・・」
と話し出した途端、間抜けな音楽が流れる。俺のケータイだ。しかしそんな場合じゃない、とりあえず誤解を解くことが先決。
「だから俺は・・・」
「ケータイでなよ、ちゃんと聞くから」
哀愁漂う顔でさらりと言われる。
「わ、分かった」
速攻電話を終わらす気満々で電話を取った。
「もしもし〜堅太?」
聞き慣れた声が電話から流れる。この甲高い声は俺のお袋だ。
「何だよ、何か用?」
ムカツク。図ったようなタイミングがマジでムカツク。
「堅太、マフラーしてかなかったでしょ?」
「マフラー?そんなもんいらねぇよ」
「寒いんだから家に置きっぱなしにしないできちんと巻いて行きなさいよ」
本当ニムカツキマス。コノ人全クドウデモイイ事デ電話シテキヤガリマシタ。
「なんだよ、今する必要無い話だろ?」
「で、今どこにいるの?」
「何でだよ?」
「いや届けようと思って」
小さな親切、多大な被害。いい人を通り越して悪魔に見えますが?
「来なくて良いって、いま、ほら、友達と飯食ってるところだからさ」
お袋には付き合っていること話していないので、苛つきながらも適当にごまかす。
「別に良いじゃない」
「良くねえって、からかわれるだろう?」
お袋がマジで憎い。こんな話している場合じゃないんだよ、俺は今から彼女に誤解を解くという重大な任務が待っているんだよ。
「分かった。何時帰宅?」
「わかんねぇって」
「だいたいどれくらい?」
すまん、マジしつこい。
「・・・今日中には戻るから、じゃあな」
無理矢理電話を切り、電源も切る。これ以上邪魔されたらかなわん。
彼女の方を向くと俯いている。嫌な雰囲気が醸し出されている。
「・・・」
無言で俯いてる・・・まさかあそこは電話に出ちゃいけない選択肢だったのか?
彼女はバックの中を漁り財布を探しだし、その中から千円札を3枚抜き取って机の上に置いた。そうして彼女は顔を上げた、何か微笑んでる・・・。
「あははっ、何か今日無理して誘っちゃって悪かったね」
無理矢理のつくり笑いがことさら嫌な雰囲気に輪をかける。
「へ?」
「“友達”なのに気を遣わせちゃってごめんね〜」
「いや、そんなこと・・・」
さっきの電話か!?誤解がさらに悪化してるよ!
「・・・ごめんね」
彼女が目が潤んでいてもう泣き出しそうになっている。
「あっと、私誘ったんだから私のおごり。お金ここにおいておくから、私もう帰るね、今日は楽しかったよ、じゃあね」
早口で言うとすたっと立ち上がり、早歩きで出口へと歩き出した。本気で帰ろうとしてる。
「あ、ちちちょっとまっ・・・痛ぅ!!」
思いっきり立ち上がり、引き留めようと一歩踏み出した途端、テーブルの脚に足を引っかけて頭からドスンとすっころんだ。大きな音だったせいで周りの視線を集め、クスクスという笑い声がしている。
俺は少し痛みでうずくまっていたが、立ち上がりそそくさと会計へと向かい自分の金で払った。料理はまだ残っていたが、独り身の惨めさと周りから聞こえてくる嘲笑のような笑いに耐えることは出来そうになかった・・・。
そして今、俺は大通りを一人で歩いている。気分は最悪。額は未だ痛いし、彼女に電話しても一向に繋がらない。「電波の届かない〜」と言うフレーズはもう聞き飽きてしまった、電源を切っているのかはたまた既に着信拒否をされているのか・・・本当についていない。俺はクリスマスだというのに不幸のどん底を味合わされているのである。そもそも彼女のような性格の良い可愛い娘と俺が付き合うこと自体奇跡だったって事なのか・・・?ああ、なるほど。身分不相応すぎたカップルを見たサンタさんが彼女のために俺と別れさせてあげたのか・・・。そもそも事の発端は俺にあるわけだ。最近彼女になかなか連絡を取れなかったのは俺、バイトを内緒にしていたのも俺、挙げ句の果てにあの場所で電話を取ってしまい勘違いされたのも俺・・・。所詮ダメ人間だったと言うことか、俺は。
いつの間にか目の前の信号が青になっていたらしい。ぼけーっとしていた俺は出遅れてしまい肩を何人かにぶつけられてもみくちゃにされる。その波に押されるようにして横断歩道を渡る。自分はどこに向かってるんだろうなぁ。家の方向と反対口だというのに駅からも離れていってるよ。この際だからどこか遠くに行ってしまおうかしら・・・俺は自暴自棄に磨きをかけていた。
ボーッとしているといつの間にか人通りがぱったりと消えている。どうやらいつの間にか裏通りに入ってしまったようだ・・・寂れた感じが何とも言えない味を醸し出している。しかしこんな道に入ったことはあっただろうか・・・むしろここはどこだ?
きょろきょろ辺りを見回していると一つの看板を見つけた。「欲しい物が何でも手に入る『サンタ屋』、彼女を俺から引き離してくれた憎き人物の名前だ・・・もちろんこのネタは俺の妄想ではあるが。いかがわしい店ではなさそうな気がするがやたら怪しいことに相違ない。店の前に立ってみると窓は白いカーテンで遮られ店内の様子は全く分からないが、ドアにはOPENの札が掛かっている所を見ればどうやらやってはいるようだ。物が手に入るって言うくらいだから店なんだろう、興味本位で入ってみるのも悪くない。どうせ家に帰ってもテレビを見て気まぐれにゲームなりギターなりやって寝るだけだ。一つ面白そうな話のネタを増やすのは悪い事じゃない。そう思い、少し重い扉を開けて店内に入った。ドアに鈴が取り付けてあるためカランカランと音が鳴った。
想像を超えた光景が店内にはあった。
上から下まで真っ白。壁も白、天井も白、棚もレジも白全てが白に統一されており、一瞬ホワイトアウトでもするかと思ったくらいであった。店内の棚には何もない、商品らしき物は一個も置いていなかった。
「いらっしゃい、お兄さん」
店の奥から姿を表したのは、彫りの深い顔に小さな丸メガネをかけ、白髭を蓄えた恰幅の良い老人。なるほど、名は体を表すと言うわけか。一通り上から下までその老人を観察した後大いなる疑問を思い出し老人に尋ねてみることにした。
「爺さん、店の商品は・・・?」
質問をすると老人は白髭をなでながら首を捻る。
「お兄さんの欲しい物はなんじゃ?」
「欲しい物・・・?」
欲しい物・・・無いな。彼女とも別れちゃったようなもんだし、謝る機会も得られるかどうか。こんなテンションじゃあ欲しい物なんて何も浮かばない、むしろどうでもいい。
「・・・残念だけど欲しい物は何も無いみたいだ」
俺がそう言うと爺さんはニヤニヤと笑う。
「そんなはずはないんじゃがなぁ・・・ここには欲しい物がある者しかこれないはずじゃからな」
「爺さんも面白いこと言うな」
爺さんにつられて俺も笑う、くだらない冗談でも何となく気が楽になった気がした。
「何にもないように見えるかもしれんが、まあ店内を見ておくれよ。もしかしたらまだここに到着してないかもしれんしな」
老人はホッホッホと笑いながらレジにある椅子に腰掛けた。
店内を歩き始めたがやはり何もない。店内はやはりそれほど広くもないし、白い棚があるがその棚には何も入っていない。こんな店存在して良いのか?商売として成り立っているのか?・・・まさか、
「もしかして見物料とか・・・」
「安心しとくれ、そんな物は取らないから」
ホッホッホと笑う、あの爺さんはまさにサンタだなと思った。
―――カランカラン
「いらっしゃい、お嬢ちゃん」
店に誰か入ってきたようだ。店内の奥にいたので客の顔は確認出来なかったが、中学生くらいの少女の後ろ姿は確認出来た。髪を後ろでちょこんと束ねているのもここから見える。
「ごめんなさい、話を聞いてきたんですけど・・・」
どうやら焦っている様子だ・・・話に聞いた?実は有名な店だったのか?
「あの、私ケータイを落としてしまったんです、赤と黒の・・・」
落としたケータイ・・・?そんなものあるはず無いのに。
「あそこにあるのは違うのかの?」
爺さんは空っぽだったはずの棚の方を指さす。少女はその方向を向いてその方向に駆け出す。
「あ・・・ありましたぁ・・・」
ほっとしたような声へと変わる、どうやら何もないはずの棚にあったらしい。何もないはずの棚からわいてきたのか・・・?
「でもやっぱり壊れちゃってるみたいだなぁ」
寂しそうにつぶやく少女。ケータイは落とすと大変だけど、メモリーとか分かんなくなるとなおさら大変だからな。電話番号とかアドレスとかいちいち覚えてないし。
「お嬢ちゃん、欲しい物は本当にそれなのかい?」
爺さんがふと問いただす、別に良いだろうにそれでもなんて思う俺は短絡的なんだろうかなぁ。
「壊れているケータイを持って帰って本当に欲しい物が手にはいるのかい?」
「・・・」
少女は俯く。なにやら訳ありっぽい。
「今日、その、彼氏と別れてしまって・・・あっ、でも付き合ってなかったんだから別れるって事にはならないのかな」
こんな日にふるなんて・・・そんな悪どい男がこの世の中に実在するのか。よく分からんがあの娘、良い娘っぽいオーラを放ってるし。まだ女の子の独白は続きそうだ。
「今日その彼と久々のデートだったんですけでど、彼、何か私に冷たくて・・・私に目を向けてくれないし、視線もそらすし・・・」
だんだんと少女の声が弱々しくなってくる。
「それでも気にしないように心がけてたんですけど、彼に電話が掛かってきて、その相手が女性で、しかもすごく親しげだったんで・・・」
少女の声がかすれ気味になり、聞き取りにくくなった・・・っていうか俺ここで聞き耳立てて良いんだろうか?
「その電話の最中、彼が私のこと“友達”って言ったんです。そこで私気付いたんです、私だけが付き合ってるつもりだったんだなぁって。彼にとっては私は一人の女友達だったんだなぁって」
可哀想な少女だ・・・イブにデートだと思ったら相手が全く意識していなかったなんて。しかも彼には本命彼女がいるのに勘違いさせるようなことするなんて。
「それで彼の話を聞かないで急いで逃げちゃって・・・、その時にケータイ落っことしちゃったらしくて急いで探したんですけど見つからなかったんで・・・」
少女はケータイを取り上げてそれをじっと見つめている。
「このストラップその彼から貰った物なんです。もう会わないかもしれないけど、どうしてもコレは取っておきたいなぁって。あんな逃げ方しちゃったからもう彼とは合わせる顔ないし・・・彼も私のこと嫌いになっているかもしれないし・・・」
少女の声にだんだんと嗚咽が混じってきた。手で目のあたりをグジグジこすっているところからもどうやら彼のことを思い出してしまったせいで泣いてしまってるようだ。それまで少女の話を黙って聞いていた爺さんがそっと口を開いた。
「お嬢ちゃん、君はその彼氏ともう一度会いたいんじゃないのかい?」
少女の体がビクッと反応し、俯いていた顔をぱっと爺さんの方へと向ける。
「ここでは君の欲しい物が手に入る。欲しい物は一つとは限らないが、でも君がここでもらえる物は一つだけなんじゃ」
爺さんは椅子からすくっと立ち上がり彼女の脇へと歩み寄る。
「この店は欲しい物がある人、全てがいつでも来られる店ではないんじゃ。心底欲しい物がある者だけが来られる店なんじゃ。そして一度の入店で手に入れられる物は一つだけ、コレが決まりなんじゃ」
爺さんは少女にすっとハンカチを渡す。そのハンカチを受け取った少女は涙をぬぐっている。その間爺さんはゆっくりと少女の頭を撫でていた。
「君の欲しい物は何かい?」
爺さんは再びゆっくりと聞く。俯いていた少女はゆっくりと顔を上げ、はっきりとこう言った。
「ケンタ君にもう一度会いたい。会って、問いつめて、はっきりしたい!」
「へっ!?」
隠れているにも関わらず、思わず声を出してしまった俺。その声に振り向く少女・・・ってか、
「涼花・・・」
「け・・・堅太君!?」
独白していたのは俺の彼女の涼花・・・ってか気付かない俺がおかしい。いくら髪を束ねていたからって、後ろ姿しか見えないからって、声はそのまま涼花の声だし、着てる服も同じだよ。しかもあのストラップ彼女の誕生日にあげたやつだったじゃねえか、キャラクターグッズでなかなか手に入らなくてそこら中探し回ったやつ。
「・・・もしかして、聞いてたの?」
静かな調子で彼女が俺に問いかける、はっきり言って少し怖い。
「・・・あ、ああ」
頷くしかない。
「じゃあいい、もういっそのことはっきり聞く。何で今日私とデートしたの?」
彼女がこちらをにらみつける。先程まで泣いていたせいか目が真っ赤である。
「そりゃ涼花が俺の彼女だから・・・」
「嘘っ!だって食事中彼女から電話が掛かってきたじゃない!」
激昂する彼女。妙な威圧感が彼女からひしひしと伝わってくる。
「いや、アレはお袋だよ」
「そんなわけない!だって『マフラーはいらない』って!マフラーって彼女からのプレゼントのことでしょ!」
「アレはお袋が心配してかけてきただけだ、一応言うがマザコンじゃないぞ」
彼女はまだ怒っているようだがだんだん動揺してきたようだ。
「じゃ、じゃあ『からかわれるから来るな』みたいなこと言ってたじゃない!」
「当たり前だろ、母親が来たらマザコンだって言われるに決まってんだろ?」
「・・・『友達』って言った」
「お袋に涼花と付き合ってること言ってないから、ごまかしただけ」
「・・・何で隠すの?」
一時期の興奮よりは落ち着いてきたものの彼女はまだ俺のことを疑っているらしい。まだきつい目をして俺のことを睨んでいる。
「いや、お袋がものすご口軽くてな。もしそんなこと喋ったら周り中に知れ渡りからかわれること間違いない」
てゆうか手っ取り早い方法を思いついた。俺のケータイを彼女に渡す。
「ほら。ケータイで履歴確認すれば、あの時誰から電話きたのか分かるだろ?」
涼花は俺のケータイをいじり履歴を確認する、上から俺も確認するとちゃんと「12月24日7時57分・母」と表示されている。少しの間その画面を見つめていた彼女だったが、納得したのかひとまず俺にケータイを返した。
「じゃあ何で今日冷たくしたの?」
「冷たくなんか・・・」
「したじゃん!こっちの方全然見てくれないし、視線そらすし!」
再び彼女の怒りのボルテージが上がり始めてきた。
「いや、それは・・・」
「何よ!?」
「だから・・・えっと」
「何!?」
段々と彼女の声がでかくなってる、少し彼女が涙目になってきている。そんな彼女に対してもなかなか本音が言えないのは俺がダメ人間だからなのだろう。
「いや、だから、その・・・」
「はっきり言ってよ!!ごまかさないで、嫌いになったならはっきり嫌いって・・・」
「可愛かったんだよ!!」
「ふぇっ」
思わず大きな声がでた。彼女はその声に驚いて変な声を上げ、ビクッと全身を硬直させた、叱られた子犬みたいに。
「その、な、今日久々にな、お前にあったわけだが、その、ちょっと、ってか、かなり可愛く思えてしまって、だな、つまり、その、照れちまったんだよ」
「ほあっ」
面と向かってこういう事を言うのはマジで恥ずかしい、かなり顔が熱くなっている、目の前の彼女もリンゴみたいに顔を真っ赤に染めていた・・・が、何かに気付いたらしくハッとして質問を投げかけてくる。
「で、でもっ、最近メールも電話もあんまり無かった・・・」
「あ、ああ。それはこれ・・・」
俺は持ってきてた鞄の中から一つ包みを取り出し彼女へ手渡した。
「こ、これ・・・」
それは赤い包装紙に包まれている彼女へのプレゼントだった。
「とりあえず開けてみてくれよ」
「う、うん」
彼女はいそいそとその包みを開くと、その中には白いロングコートが入っていた。
「このコート、高かったんじゃあ・・・」
「コレ買うために先月からバイト入れてたんだよ、それで忙しくなってさ」
「じゃあ・・・言ってくれれば良かったじゃん」
「いや、ドッキリの方が喜びひとしおかなって思って・・・っとぇ!?」
彼女が俺の胸に抱きついてくる。突然だったので後ろに倒れ込みそうになったが一歩踏ん張って耐え、俺の胸あたりに彼女の頭がぶつかる。
「言ってよ、ひどいよ、連絡全くとれないから、嫌われたかと、思ったじゃない」
彼女は鼻をすすりながら喋ってる、また泣いちゃったかな。
「ごめんな、別にそう言うつもりじゃ無くてさ」
彼女の背中を抱きしめようとしたその時、
「で、そろそろいいかの?」
爺さんが声をかけてきて、冷静になった二人はバッと離れた。
「これはお返しします」
そう言うと彼女はケータイを爺さんへと手渡そうとしたが、爺さんは受け取らなかった。
「これはお嬢ちゃんの欲しい物じゃろ?」
「でも私は『堅太君に会って、話し合いたい』って願いましたし、その、叶いましたから」
また真っ赤に染まる彼女の頬、彼女はやっぱり顔にすぐ出るタイプだなと確信した。あと感情の起伏が激しいところも。
「残念だったの、それは既に売り切れじゃったんじゃ。だからそのケータイはお嬢ちゃんのもの」
「「えっ?」」
爺さんの意外な言葉に俺も彼女も声を合わせて唖然とする。
「そこのお兄さんが先に買ってしまったんじゃよ」
あごで指し示されたのは当然俺だった。彼女は俺の方をじっと見つめている。
「お、俺は何にも望んでなかった・・・」
「本当かの?」
爺さんはニヤニヤ笑い出す。頷くのも癪だったが頷く。悔しいが全て爺さんにしてやられた気がする。最初っからこうなることが分かっていたかのような顔をしてやがる。
「ありがとう爺さん」
「いやいや、これが仕事だからの」
ホッホッホと笑い、そしてドアの方へと指さした。
「目を瞑ってドアを開けてくれ、そうしたら店から出れるからの」
白髭を撫でながらカウンターに戻っていった。ヨイショと言って椅子に腰掛ける。その間俺は目を開けてたらどうなるのかと考えをていると、
「安心しとくれ、目は瞑らんとドアは開かんから」
と言われた。
俺たちは二人手を繋ぎドアを開けて店を出た。
「いらっしゃいませ、堅太様と涼花様でいらっしゃいますか?」
ドアを開けるとそこは高級そうな俺たちには似合わなそうなレストランの中だった。ウエイターから声をかけられ反射的に頷いた物の予約した記憶など全く無い。むしろお金のことが怖くなった。
「さあこちらにどうぞ」
二人とも言われるがままにウエイターについて行く、案内されたのは個室だった。
「こちらがメニューとなっております」
ウエイターは二人にメニューらしきものを渡し、さらに紙を一枚渡した。
「サンタ様からでございます」
手紙にはこう書いてあった。
「今日は二人にずいぶん面白い物を見せて貰った。
だからこれは私からのお礼、お金などは気にせず楽しんでくれ
サンタより」