どんっ! いきなり衝撃。 いつもの並木道、目の前にはさっきまでいなかったはずの、若い男性が一人。 「…………………………」 なかなか整った顔立ちのマント青年は、しばしぱちくりしていたが…… 「すみません、お嬢さん」 と丁重に(ちとキザに)あやまってきた。 「はぁ……」 彼は黒いシルクハットをとると芝居がかったしぐさで一礼した。 「わたしは時空をわたるさすらいの旅人。 ――そうだな。いまは『帽子屋』とでも名乗っておきますか。 いずれ会うこともありましょう、可憐なレイディ」 手に真っ赤なバラの花を出現させ、その花弁に軽くくちづけると、わたしにわたした。 「では」 そしてくるっときびすを返すと、去っていった。 首の後ろで一つに束ねた黒髪がかすかになびく。 それがわたしと時魔導師アシェンデ・ラドクリフの出会いだった。 さて、今日はもう帰ろうか…… わたしはそのまま、ルームメイトのユキが待つアパートの部屋に帰った。 今日はバイトはない。ないってことは、時間はあるけどお金が入らないってことであって、一応苦学生のわたしにはいいのか悪いのかちょっと断言できないところである。 だったら勉強しろよ大学生、といわれれば、それはまあ、そうなんだけれど。 見るともなしに取り出した学生証。少しだけ角がおれたカードに張り付けられた写真から、1年前のわたしがこちらをみている。 トレードマークの青いヘアバンドだけが特徴の、平凡な女の子。 わたし、アリス・エディアールが“眠れる魔術師と天使様”の待つ、不思議の館に足を踏み入れるまでにはあと、1日だけ猶予があった。 →アリス編1へ