・ているおぶぶるーしーど・
「ええと…ひとつきいていい?
君、水の精霊エリエーシュ?」
「はいです。
…たぶん!!」
3.定位置は右隣。
エリエーシュは突如顔をしかめ、己のこめかみに手を当てる。
「いたたた…
っと、とにかくごめんなさい、ご主人様」
「分かってくれたならいいよ。それより大丈夫?」
「…ああ、もう大丈夫です。
すみません、いきなりすっごい頭痛がして。なんなんだろうもう」
「封印から出たばかりで、外界に適応しきれてないんじゃないかな?
君が封印されてから、100年は経ってる」
「へえそんなに、…って100年?!
やだ!! あたしすっかりばばあぢゃん!!」
とたん、彼女はひばっと顔に手を当てる。
「…いや、精霊はトシとらないから…」
「ええっ?! あたしっ精霊なんすか?!」
「……………………」
ぼくはぼうぜんとした。
「ええと…ひとつきいていい?
君、水の精霊エリエーシュ?」
「はいです。
…たぶん!!」
いくつか質問してみるとわかったことは、彼女は名前以外の記憶を吹っ飛ばしているらしいということだった。
ぼくの知る限りだと――
彼女は100年前『メルクリウスの乱』で活躍した精霊。
名はエリエーシュ(愛称エリー)。属性は水。得意技は、ミスティアルバラード(高らかな詠唱で霧の波動を呼び、すべての魔法をほとんど無力化する)。
前身は人間だったらしく実体を持ち、戦士として剣を扱うこともできる。
主である“水霊司”エリクシアスとはきわめて仲むつまじく、恋人どうしのようにさえ見えたという。
彼女と彼は“メルクリウスの泉”の封印を解くという目的の一致から、“連合軍”がわに協力。桁外れの強さと破天荒の知略で連合をあっと言う間に目的地へと導いた。
…しかし、ふたりは突如姿を消す。
最終決戦をまえに、彼女は文字どおり姿を消し、彼は自分の陣営を裏切ったのだ。
“水霊司”エリクシアスは、突如反対派がわについて“連合”の精鋭たちを打ち倒した。
その結果、最後の最後で泉の開封は失敗。“連合”は敗走した。
しかし彼自身もまた、元の仲間が(倒れつつもなんとか)放った攻撃に身体を貫かれ、海に落ちて以来歴史から姿を消している。
――の、だ、が。
この彼女はんなこと“さっぱり覚えてないです〜あはは☆”だそうでっ。
でも、そうだとしたらなおのこと、ここに置いてはいけない。
街まで連れ帰り、取りあえずは神殿に連れて行こう。ひょっとして、ちょっと言動がヘンなだけの行方不明者かも知れないのだ。
ほかに行くとこがなくて、かつ旅に耐えられる能力があるなら、仲間に入れてもいいし。
すくなくとも、心根の悪い子じゃなさそうだから。
すくなくとも、記憶がなくなっている間は。
ぼくたち4人は彼女を連れて、転移魔法を二つ使った。
ひとつはこの遺跡を脱出するためのもの。
もうひとつは、最寄りの街まで飛ぶためのもの。
そこから神殿までは、さすがに歩きだけど。
小都の門をくぐるとぼくは、いつもの帽子と眼鏡を装着した。別にアタマが寒いからでも、目が悪いからでもない。目立つのが、顔を見られるのが苦手なのだ。
「わあ、あれなんだろう? うわ、あれおいしそう!! わー、あれきれい!!」
しかしぼくのはかない努力を無に帰す奴が今日はいた――エリエーシュだ。
100年ぶりに歩く街中は彼女には珍しいものばかりだったようで、騒ぎっぱなしだった。
(まあ、気持ちは分かる。ぼくもいなかもんだったし。)
そしてこの短い時間で彼女の可愛らしさにほだされた三人は、いちいち解説してやっている。
ヴァンは炎の赤毛で声がでかい(身体もでかいがそれ以上に)。
サクラは長いつややかな黒髪が目を引くはきはきとした美人。
アーチェは知らない奴が見たら、いかにも可愛い女の子(声も高いし…)。
そしてコトの元凶エリエーシュはあのとおりだし。
つまりこの一行は現在馬鹿みたいに目立つというわけでっっ。
ぼくは振り返ることもできないままに、それでも言わずにいられなかった。
「あのさエリエーシュ。頼むからもうちょっとボリューム下げて…」
「あらいいじゃないのよ100年ぶりなんだし」
「だよな〜」
「ですよね☆」
「ぼくはエリエーシュに言ってるの!
エリエーシュ、…」
返事はない。
「…あいや、その、ヘンジくらいはしてもいいから、…」
さすがにきつい言い方だったかな。ぼくは振り返る。
と。
「エリエーシュ?!」
いない!
どうしよう。あんなおのぼりさん状態のしかも可愛らしい容姿の子がひとりで…
「…いた」
彼女はちょっとはなれたとこをふらふら〜っと歩いている。
彼女の前を歩いているのは、ぼくと同じように青い髪をした、ぼくとまあ同じくらいの年頃の少年。
なるほど…間違えちゃったんだ。
ぼくも子供の頃、何度かあったからな。
ぼくはさっそく彼女のもとへ向かう。
「エリエーシュ!」
「はい?
…あえ? ごしゅじんさまがふたり??」
「いやぼくがホンモノ。そっちは良く似た見知らぬヒトだから。」
「…あ〜そういわれてみればそうかもですねえ。すみませんご主人様」
彼女は素直に頭を下げてくる。
ぼくは素直に彼女がいい子だと思って。
「100年前より人も多いし、まちがえるよね。隣歩こう、エリエーシュ」
「ご主人様…はいっ!」
はじめて会った瞬間と同じように、エリエーシュの笑みが弾ける。
ぼくはおもわず、今だけ、今だけならもういっぺん抱き着かれてもいいかな、なんてムシのいいことを考えてしまう。
するとすかさず飛んでくる声…
「おお」
「あら」
「なんかいいフンイキですねっ」
「っていうかむしろらぶらぶ」
「後方で話す三人!
…今日の宿代とご飯代を持っているのはだれ?」
「あ、あ〜ワリワリ! 今行くってばよ相棒」
「まったくもういいじゃないのよ若いんだし」
「そんなあフィルさん、見捨てないで下さいよ〜」
まあとりあえずぼくはそんなわけでしもべども…もといメンバーたちをひきつれて、まずは神殿へと向かった。
〜続く〜
ACT4.まわり道のはじまり。
ACT2.大精霊は頭が痛い。
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