・ているおぶぶるーしーど・
「それでエリエーシュの人間時代…っていわれてる女剣士の通り名ってのがさ、エリエナってんだ。そう、そこのあんたと同じ名前だね」
「はぁ…
っ!!」
8.相席能書きのち襲撃。
翌朝、サイス大神官に見送られて、ぼくたち一行は神殿を出た。
街を出て、まずは瞬間移動の魔法を使う。
行き先は、アーチェの故郷の街、シェンタ。
そして向かうは馬車乗り場。
ここからリメル神殿までは、少し距離がある(歩いて2〜3日、馬車でも場所と時間が中途半端なため一泊二日になる)。歩いていけない距離ではないが、今はエリエナの記憶の封印がある。
あれから…
仕入れを終え、神殿に戻ったぼくたちを待っていたのは、大神官からの呼び出しだった。
「大丈夫とは思いますが、万一ということもあります。急ぐ方がいいでしょう」
部屋を訪れると彼は、そういってそっと小さな袋を渡してくれたのだ。
「えっ?!」
その重さ、馬車代には明らかに多い。
宿代ご飯代ほか物資に必要な経費なんかをいれてもまだあまる。
いくらなんでもと辞退しようとするぼくたちに彼は、笑顔で付け加えた。
「これは、わたしたちの計画のために必要な資金としてお渡しするものです。遠慮など要りませんよ。
ほんとうはわたしも、あなたがたについてゆきたいのですが…。
せめてもの気持ちです。
これを使って、一刻もはやく…一歩でも先へ。
世界のために、精霊たちのために…」
そういわれると、受け取らないわけには行かない。
たしかに、ぼくたちの計画は、一刻を争うものではない(っていうか争えるほど簡単でもない)けど、のんびりしていていいものでもないのだから。
――四大エレメンタルの泉の封印を解く。
まずはこのエリエーシュの記憶を取り戻し、水の泉の封印を解かなければ。
ぼくたちは気持ちも新たに大神官の部屋を出たのだった。
余裕を見たせいか、発車までにはやや間があった。
ただ待ち合いで座っているのもなんなので、ぼくたちは周辺をちょっとだけ散歩することにした。
最近はごぶさた気味だったが、子供の頃は夏とかにアーチェのうちに遊びに来ていたので、この辺も全く知らないわけではない。
しかしそれはちょっとした失敗? だった。
「おい待て!」
歩いていると後ろから聞き覚えのある声。
ふりかえるとそこにいたのは見覚えのある三人組の男たち。
「…フィル、知り合いか?」
ヴァンがきょとんとぼくに問う…っとサクラ&アーチェのツッコミが飛ぶ。
「そんなわけないでしょ!」
「ヴァン、いい加減自分がタイホした人たちのことくらい覚えましょうよ。相手にお気の毒ですよ!」
…いや、そのフォローの方が気の毒だと思うぞアーチェ。
「え? …あ!
そう言われてみりゃお前たち、こないだとっつかまえた…
……………………
…………………………
………………………………
食い逃げ犯?」
ヴァンはちょこっと首をかしげた。…思い出せないらしい。
「こいつ! ナメてんじゃねえぞ!!」
「てめえらが余計なことしやがったせいで俺たちは臭い飯を食わされたんだ!」
「ここで会ったが100年目。思い知らせてやる!!」
一ヶ月前ぼくたちがタイホして、なのになぜかここにいる(いや、脱獄したんだろう。まあどちらでもいいことだけれど…。)シード強奪犯グループは、言い様一斉に襲い掛かってきた。
「っ!」
とっさにヴァンが先頭の男にダッシュ、みずおちにひじを入れつつ抜刀。
サクラも一瞬でロッドを展開、ふたりめの足を払い喉をおさえる。
アーチェは抜刀しつつも一歩引いて、『風の加護』をパーティー全体にかける。
三人目の男がヴァンとサクラの間を擦り抜けようと突進するが、そうはいかない。
彼を待っていたのは、ぼくとエリエナが同時に抜いた剣だった。
クロスするふたつの刃に首筋をおさえられ、彼はかちこちに固まってしまった――
そしてぱたり、白目をむいてひっくりかえった。
脱獄犯である彼らの引き渡しに説明は要らなかった。
おかげでぼくらはかろうじて馬車の出発に間に合った。
「それにしてもすごかったですね、フィルとエリエナさん。
とてもはじめて一緒に戦ったようにはみえませんでしたよ!」
しかし座席に腰をおちつけると、アーチェがにこにこと切り出してきた。
「ほんとね。打ち合わせしてたわけでもないのに…」
サクラは不思議そうである。
「長年のコンビでもあんなにタイミングが合うなんてないですよ、なかなか」
「そうか?」
「そうですよ。フィルとヴァンとの夫婦漫才にも匹敵してましたよアレは(笑)」
「「だれが夫婦だ」」
ぼくとヴァンは同時にアーチェに突っ込みをいれた…しまった、奴の思うつぼだ。
(ちなみにエリエナはぶっと吹き出し馬鹿受けしている)
しかしそれを救ってくれたのは、ちょうどそのとき乗り込んできたべつの乗客たちだった。
…っと思ったのは、馬車が停留所を出るまでの間だけだった。
乗ってきたのは3人組の男たち。
しかしこれが大変だった。
なかのひとりがなんというかやけに愛想よく、もっといえばうるさいくらいに話し掛けてくるのだ。
「おたくたちもリメル神殿にいくのかい? いやあ奇遇だね〜。ていうかこの馬車だったらリメルしかないよね。おたくも試験? 俺もね、試験なんだよ。全国統一精霊試験」
「へ?」
「せいれいしけん?」
「え、知らないの?
精霊族の歴史と知識を問う資格試験。いまってオリジナル資格試験がはやりじゃん。そのなかのひとつだよ。結構有名なほうだと思ったけどなあ」
「はぁ…」
ぼくも精霊使いだが、そんなの聞いたこともない。
「まあいいや。でもこいつは出るぜ。エリエーシュ人間説。
『メルクリウスの乱』で活躍した水精霊エリエーシュはもともと人間で、身体のおくに強力なシードを埋め込まれたがために事実上、精霊になったって説」
「あっ、あの〜…」
エリエーシュって名前は今はまずい。エリエナの封印に悪影響がある恐れがあるのだ。
しかし男はとうとうと続ける。
「それでエリエーシュの人間時代…っていわれてる女剣士の通り名ってのがさ、エリエナってんだ。そう、そこのあんたと同じ名前だね」
「はぁ…
っ!!」
――『そこのあんたと同じ名前』だって?
ぼくたちはまだ自己紹介なんかしていない!!
「何者だ、てめえ!」
こういうときはヴァンも鋭い。
おおきな身体でエリエナをかばいつつ、男たちに睨みを利かせる。
「おや、わかっちゃったかい。
ま、分かってくれなきゃ困るんだがね…」
男はふっふっふっといった様子で笑うと、いきなり抜刀した。
刀身の短い、ショートソード。
彼の仲間たちもそれぞれ短刀とトンファーを取り出す。
狭い馬車の中で戦うには、適した武器の選択だ。
「…つまりはそのつもりだったってことですね」
「その通りだアーチェ=ドート。
おとなしくエリエナを渡してもらおうか。
そいつは体内にシードを隠し持っている。ヒトを単なる魔法使いでなく、真の精霊と変えるほどの強力なシロモノをだ。幻の精霊エリエーシュのシードは我らが狩る!!」
「まどろみの風」
彼のセリフの終わりに合わせてアーチェがすっと手をさしのべ、唱えた。
至近距離、しかも長ゼリフで息を吐ききっていた男はひとたまりもない。
同時に、ヴァンとサクラ、ぼくとエリエナがダッシュ、残ったひとりずつをおさえた。
かれらもまた、シード強奪犯グループだったらしい。
つぎの停留所で下車したぼくたちは、かけつけた神殿騎士たちに彼らを引き渡した。
「なに、今の」
彼らを見送りエリエナは自嘲的に笑う。
「あたしは人間だよ。嫌になっちゃうくらいにね。…みんなと違って」
「エリエナ…」
「行こう。ずっと馬車だしお腹減っちゃった」
エリエナはとっとと歩き出した。
「たしかこっちの方に、ご主人さまといったお店が…いたたた」
だがすぐにこめかみをおさえて立ち止まる。
「エリエナさん!」
「あいた…た…
?
あ、みんな。
…あたしここで何してたっけ?」
ぼくたちは顔を見合わせた。
口調が、用語が、一瞬だけだがエリエーシュに戻っていた。
――エリエナの記憶の封印が、あきらかに不安定になっている――
たぶんさっきの男の言葉のせいだ。
しかしアーチェが無敵の笑顔でフォローを入れてくれる。
「えっと、なんでもありませんよエリエナさん。
お腹減りすぎて気分悪い〜ってふらふらしちゃってましたけど、ただの貧血だと思われます。
早く宿に入ってお食事して、今日はもう休みましょう。明日もありますから」
「そっか。ありがとアーチェ」
エリエナはというと、その愛くるしさに騙されて? 疑うことなく頷いてくれた。
「近くに、知り合いの方が経営している宿があるんです。そちらにお邪魔しましょう」
よっしゃ、ナイスだアーチェ。
しかし目が合うと奴は意味深な笑いを投げてきた。
後日なんかおごらされ決定…ってなんでぼくがっ。
ちょっとむかついたぼくは、その席にはヴァンを巻き込むことを決意した。
しかしそんなのーてんきムードはあっというまに吹っ飛んだ。
宿に向かう途中の茶屋の前。
店の前にしつらえられた縁台では、冒険者らしいふたつのグループが談笑していたのだが…
そのうちの一方がぼくらをみるなりがたっと立ち上がった。
「やっぱりきたな!
“消え行く海霧”エリエーシュよ、お前のシードは俺たちがもらった!!」
するともう一方も立ち上がり叫ぶ。
「なんだと? お前らそんな悪人だったのか?!」
…いや、かれら(ってかそのリーダーっぽいヒト)が怒鳴っているのはぼくらにじゃない。最初に立ち上がった連中のほうだ。
「エリエーシュ様は、我らが女神。復活を果たされた暁には滅び行くこの世界を救ってくださる偉大なお方だぞ! それに手をあげようとわっ!!」
言い様彼らはいきなり抜刀。対してシード強奪犯グループ(多分)も臨戦態勢に。
ぼくらそっちのけでヒートアップする2グループ。野次馬が集まりはじめる。
ぼくらはというと、急いでその場を離れた。
なぜなら再びエリエナが、顔をしかめてこめかみに手をやったからだった。
〜つづく〜
9.助太刀はあいつたち。
7.青い髪のシンパシー。
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