・ているおぶぶるーしーど・
「…大丈夫? 頭、いたくない?」
「あたしはもうゼンゼン平気だよ!
…ってかフィルってば…
こんな状態であたしのこと心配してくれるなんて…」
エリエナは目を潤ませてぼくを見つめる。
10.油断大敵とフシギな心持ち。
黒衣の男はガルディアだった。
となると、彼の仲間のふたりは当然。
「おまえたちはエンジュとカルスだな。
なんのつもりだ。ぼくたちはお前らを捕らえるのも任務のひとつだ!
まさか昼間の連中と同じ目的で?!」
「全く違うな。」
(にゃはは〜フィルにゃん〜ちょびっとぶり〜なんぞと笑いながら嬉々としてフードをとるカルスを完全無視し)エンジュはうっとうしそうにフードを払う。
月が、燃えるような赤毛と金の瞳に透過光を落とし、はっとするほど美しい。
しかし見とれている場合じゃない。そもそもそんな気分でもない。
鋭い視線が正面からぼくたちを射抜くと同時に、きわめて無愛想に彼女は言い捨てる。
「こっちにも都合がある。
詳しく知る必要はないが、とにかくおまえたちにはリメルにエリエナを無事に送り届け、その記憶を取り戻してもらわないとならない。
だがおまえたちだけでは奴らに対抗できない。
――まずお前たちを恨むものがいる。
けさお前たちは妙な男からエリー=エリエナ説、エリーのシード隠し持ち説をきかされただろう。それにもとづいてエリエナを追っているものもいるのだ。
組織の新興のパーティー。それと、精霊エリエーシュを女神と崇める新興宗教だ」
「なぜお前たちがそんなことを知っている。
まさかお前たちが」
「奴からの情報だ。われわれとは関係ない」
エンジュは親指でエリアスを示しぼくのコトバをぶった切った。
「それにしたって、シード強奪犯となんか組めるか!」
「我々と事を構えて生き残れるか? この状況で」
屋上には、すでに次の刺客の影がおちていた。
その数、20以上。
彼らの身のこなしからして、ぼくたち4人でさばききるのは困難。
「利用できるものは利用したらどうですか?
彼らはこれでもプロですよ」
いまだ意識が戻らぬエリエナの肩を支え、エリアスがくすくす笑う。
「冗談じゃない!」
頭に来たぼくは、奴から彼女を引き離し、屋上の入り口へ向かった。
「どちらへ?」
「部屋。こんなとこにおいとけない。
篭城戦でカタをつけるか…」
ら、と言おうとした、そこでぼくは絶句した。
どん、という衝撃。背中の真ん中が強く押され、一瞬視界がふきとぶ。
『背を向けたぼくをあの中の誰かが狙撃したのだ。』
後悔するより先に、ぼくの意識は途切れていた。
気づくとそこは、寝台の上だった。
ああ、そうか。撃たれて、運ばれたんだ。
っていうか、やけに豪華かつ上品なフンイキなんだけど…
ぼくのうえに見えるこの白いのって、ひょっとして天蓋じゃないか?
「フィル!」
取りあえず起きようとすると、叫び声がとんできた。
「だめだよ急に起きちゃ! エリアスさん呼んでくるから!!」
そして叫び声を発した本人も。
「エリエナ…」
小気味よく、歯切れのよい口調。さっぱりきっぱりとしたしぐさに表情。
彼女はすっかり“もとに”戻っているようにみえた。
「…大丈夫? 頭、いたくない?」
「あたしはもうゼンゼン平気だよ!
…ってかフィルってば…
こんな状態であたしのこと心配してくれるなんて…」
エリエナは目を潤ませてぼくを見つめる。
「…背中撃たれたんだよ。当たり所よすぎてけっこうすごい重傷で、エリアスさんの回復魔法がなかったら今ごろどうなってたかわかんなかったんだって…
あたしのことかばってくれたんだってね。
ごめんね。ありがとう。
きっと恩返しするね」
「ありがとうエリエナ。
でも恩返しなんていいよ。
ぼくたちは仲間だろ? 当然のことをしたまでなんだから」
「仲間…。
そうだね、うん」
エリエナはにっこり笑って、ベッドサイドの椅子に座った。
「ねえフィル。フィルたちって使命のために旅してるんでしょ?
サイスさんから教えてもらった。世界を救うために旅してるって。
そのこと詳しく教えてよ。あたしも、フィルたちのチカラになりたい。
記憶を取り戻して…もとのあたしにもどったら。
フィルのほんとの仲間になりたいんだ」
「こらこら、エリエナ」
と、エリエナのあたまをこつんと小突く者がいた。
見上げるとそれはサイス大神官…じゃなくてエリアスだった。
「エリアスさん!」
エリエナが振り返り、ちょっとすっとんきょうな声を上げる。
「怪我人に無理をさせちゃいけませんよ?
傷はカンペキにふさぎましたけど、こんな細くて小さくて可愛らしいおぼっちゃんですからね。他にダメージが及んでいるかもしれません。
サクラさんたちに、かれが目覚めたことを知らせてあげて下さい。その間に、診察を終えてしまいますから」
「はっはいっわかりました!
それじゃフィル、あとでねっ。ごはん用意しとくからね!」
エリエナは立ちあがり、ぱたぱたと部屋を出ていった。
エリアスのいいぐさは男として少々むかついた…が、それよりはエリエナの頬が、なんとなーく赤いような気がしたのがちょっとばっかり気にかかった。
「…だいたい問題なさそうですね」
エリアスは一通り診察を終えるとそういった。
「それにしても似ていますね。
サイス大神官…そして、エリクシアスと」
「へ?」
不意に飛び出した名前にぼくは虚をつかれ、すっとんきょうな声を上げてしまう。
「エリクシアス。
――“消え行く海霧”エリエーシュのあるじ、ですよ。
エリエーシュの封印はエリクシアスにしかとけないはずだったのに、なぜ…
彼の縁者はことごとくシードと化すか、天に召されているはずなのに。
一応聞きますけど、心当たりはありませんか」
「え?
…とくに、ないです。たしかにウチは水の精霊の血を引いてますけど…先祖もぜんぜん普通ですし」
ぼくを見るエリアスの目つきがやけに鋭い。ふいにそれに気付いてしまい、またしても虚を衝かれたぼくは、ちょっとしどろもどろになっていた。
「エリクシアスの子孫てことはたぶん…」
「ええ、ありえませんね。ぜったいに。」
エリアスは即答した。
「とにかく、あなたについてはもっと調べる必要があるようですね。
まあこの件ではあなたは役に立たないでしょう。あなたは余計なことは考えず、無事にリメルにたどり着き、エリエナの記憶を取り戻すことに集中して下さい。
“かれら”を上手く使って下さい。世界を救うなら、そうした事もできて当然ですよ」
それだけ言うと、エリアスは立ち上がった。
「――だいたい問題ないですよ。
ただし数日間は無理を避けて下さい、フィル=フォーシオン殿。
診察は以上です」
取ってつけたようにそう言い置いて、エリアスは部屋を出ていった。
入れ替わるようにして、エリエナ、サクラ、アーチェ、ヴァンがなだれ込んできた。
〜つづく〜
11.わだかまりと三文芝居。(上)
9.助太刀はあいつたち。
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